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2008年02月21日

覆面3・冬 Bブロック:感想

Bブロックの感想です。
推理は現在Cと合わせてやっているところですが、もうカンニングでも使える情報は何でも使ってやってやるぜー! と思っているところですが、それより先に脳がとろけてしまいそうです。

感想はやっぱり長い上に盛大にネタバレしているのでご注意です。

『』内は本文からの引用です。



B-01 奪われた空

考えるまでもなく――そして理由は解らないけれど常識的に「そうある」ことを受け入れられていることが一転して「そうでない」ことになった時の崩壊感が、淡々とした口調で語られながらも、いやそうであるからこそ強烈。何の前兆も無く飛べなくなったらそりゃあ悲惨なことになるよなぁ……。冒頭からのほのぼの感がひっくり返った光景は、想像するだに血生臭く、地獄。この展開には、「何か知らんが人間が飛べる世界」というアイディア含めてうならされました。
しかしこれ、主人公が飛べなかった理由は、これの前兆だったのでしょうか。だとしたら、主人公が飛べない理由を本気で調べようとする人がいたら、もしかしたらこの惨状を警告できて、それを全ての人が信じなくても、何%かの人の命は救えたのかもしれませんね……と、考えたら、なんともいえない気持ちに。主人公にとっては、研究対象にならなかったのは幸いだったし、幼馴染のツバサさんにしても、両親にしても「悲劇後」の備えができていたということですしね……。……って、もしや、ほのぼのの中にすんごい毒が仕込まれていたりして、この作品(汗
幼馴染と未来の子どもの名前は、いい関係性でこちらもニヤニヤしちゃいました。

……と、ところで、このご両人の家族や友達は無事だったんでしょうか……。




B-02 虹のリドル

読み聞かせに良さそうですねー。文章も言葉も丁寧。選び抜かれた優しい言葉遣い、それでいてバラエティに富んでいる。
ほんわかとした絵柄、それかデフォルメの効いた親しみやすい絵柄の挿絵を付けて低学年向けの児童書にしても良さそうだし、もっと対象年齢を下げて絵本にもできそう。
病気のお母さんを気にかける小さな女の子なんてそれだけで何かじんときちゃいますよ。
内容はこういう童話調のお手本みたいな作りで、夢に溢れていて、ちょっとハラハラさせて、でも悲惨なことなどはなく、幸せな物語を飽きずに楽しませてくれて。
『虹をつかまえたところをぼくに見せてくれ』というペガサスの謎かけが、主人公の願いと重なっていたのも面白いし、それで主人公がどうするのかという好奇心もくすぐる。読み聞かせの場合、「どうする?」って聞いている子どもに訊ねてみるのも良さそう。
フクロウやペガサスのキャラクターもいい。そしてどちらも道を教えるだけだったり、協力する条件に謎かけをして安易に主人公を助けないのも。
にしても、ひばりちゃんは良い子だなぁ。でもお母さんに怒られるかな、帰ったら。まあ、それも勉強、ですけどね(^^
ちょっとの時間いい感じで童心に返らせていただきました。




B-03 例え夢を諦めても(beyond the empyrean)

青春だー。ちょっとひねくれてる・変わり者だけど、根はまっすぐな二人の人生の歩み方が面白い。
冒頭から強烈な印象を与えてくれたさとるさん。『そう、私は抜け殻なのだ』とは言うものの、どうもそうとは思えぬ強さがある。正宗君を科学館に誘って自分の夢を託そうとするところからも『夢』を諦めてるとはどうも思えない。彼女の進路は明確にはされなかったけれど、何か企んでないかなとどうしても穿ってしまう。例えば……宇宙飛行士の訓練施設で汗を流す正宗君に、同僚として「よう」とか言って軽く再会してくれそうな……。
正宗君も惚れた女のために決まった進路を変えるとはなかなかやりますねぇ。ケンカ強く頭も良く、科学館で見せたようにちょっと子どもっぽいところもある。もしかしたら、さとるさんは彼のことを――特にその体の丈夫さが――羨ましくてたまらなくて、彼に目をつけるようになったのかな。思えば、さとるさんが欲しいのであろうものを彼は全て持っていると思えるし、それだからこそ『唆し』たくなったのも解る。……や、穿ちすぎかもしれませんけども。
それにしても最後の別れ方は二人して漢前。こりゃあ正宗君、えらい女に惚れたもんですわ。




B-04 冷たい頬※注意※

初めはこれ、最愛の人の死に狂ったマッドサイエンティストの話かと思っていましたが、どうも違う? 最後まで読んでふと立ち返れば、冒頭の節は、ルリの動かそうとしていた……サイボーグかな、どうやらそれが「主人公」であるよう。
途中、倫理的に問われる研究と殺された博士のサイボーグらしきものが出てきて、そしてコウヤが殺されたことから、新たに研究を進歩させるために彼を被験者にした「博士のサイボーグではできない実験」が行われていて、それに至るまでをコウヤが回想していた物語かと思ったんだけど、最後に博士の研究レポートが出てきてまた認識がひっくり返る。
つまり『空は、わたしに始まり、彼女に終わる』というのは、スオウ博士は自分が死ぬことを予期、それとも死ぬことを決定していて、『彼女と共に、再び、この記録が続けられる事を願う』というのは、自分が死んだ後、この研究を「終わらせた」ルリの手で蘇り、また研究を続けていこうという意思。だから物語の冒頭で「主人公」であったのは「それ」であり、翻ってつまり、この作品の真の主人公は「博士」だ、と。
単なる間違った深読みかもしれないけれど、もしそうだったらこの作品で一番「狂っている」のは博士ということになって……ルリはその手に操られた人形、コウヤと彼女の両親はそのために犠牲になったということになって……ゾクリ。




B-05 かくして王は

歴史絵巻の裏側を覗いた気分と王座を巡る因縁に浸れる物語。凄い。
冒頭付近では淡々とした印象を与える文体が、後にいくにつれ――新王の生い立ちを語らされる吟遊詩人の混乱や、次第に新王の生い立ちを聞くという当初の目的を外れて変質していく語り手たちの姿、そして『真実』を知る男の得意気な、同時に愚かな言動を語り続けていくにつれ、形は変えないのに熱を帯びていくのが凄い。構成と演出の妙、といえばそれでしょうか。
そして結局、「父」から語られた出生以外の情報は最初から最後まで多く謎に包まれた新王の存在感は強く、彼が『才気走る』者であること、そしてどんな王侯貴族達の陰謀があろうと死ぬまで王であり続けるであることを確信させる流れも。なるほど自ら物語を提供せず、真実に迫ろうという好奇心を逆手に取って自らの出生に関する物語を民自身に自給させて満足させるとは……最後、若き語り手が『真実』に触れた話をしても、それがすでに『聞き飽きた』と退けられるのは何とも皮肉で、その上『真実』を知るこちら(読者)はニヤリとさせられる。
「父」が王宮にたかりに来たことと、二人の関係、そして「父」が「死の旅」に出る過程は因果なもので。
さらに、そこに一つ死からの回避策――しかし「父」はそれに気づかないであろう希望があるからこそ重みが増してうならされる。
うーん……、なんともはや、練達な吟遊詩人に語り聞かされたかのような満足感。




B-06 未だ凍てつく春の中

いーやー、凄い描写力。
冒頭一段落目から目がくらむほどの彩度で色が浮かぶ。冬枯れに呼び起こされる白と黒、雪色を言い換えた銀、息の白さ、そこに浮き出る異端――蝶。黄と青、何だろうオオムラサキかギフチョウかキアゲハか、色々考えても思い当たる羽がなくて逆に想像を掻き立てられて、そうしながら先に進むと、厚い白の中に緑が溢れ、ホーホケキョと馴染みある声が耳を突く。
これだけでもうくらくらですよ。内容も神秘的で妖しく、常に死の気配(冬がその象徴?)を抱えながら、『夏の戸叩きうつせみ残して去りぬ』と不吉な言い伝えばかりが時を縮めて急きたてる。
そこで、ふいに訪れる、行路と巴の感情の絡み合いが厳寒の中で夏の熱よりも圧倒的に熱く。『寒い』と口にした行路の中に、『そんなにそこは寒いのか』と巴に尋ねられたのをきっかけに溢れ出した感情は明確な形を取っていないのに、強烈にこちらの胸に迫ってくる。『分厚い殻を纏っているのは、巴ではなく自分自身なのか』これは行路が何を抱えていたのか。不吉な言い伝えで予告された巴の「死」を間近にした無力なのか悲哀なのか絶望なのか。それを抱き温める巴の温もりが伝わってくる文体が、凄い。
そこから繋がる病の「快方」も、その熱に引きずられて説得力を持つ。ああ、何だかここに焼かれて死んだ巴の母の姿が重なるのは何故だろう。火の熱ではなく、人の熱が巴を救ったのでしょうか。『捨てられた命を行路が拾ったのだ』と彼女が言った通りに。
最後の雪道を歩く二人の姿は微笑ましく、この先の春は二人の未来を象徴しているようで、それもまた、温かい。
最初から最後まで美しい世界に浸れて、頭の中は雪解けの冷たい川で洗われたように爽快です。

ところでこれ、規定ページ数目一杯ですし、かなり削った部分もありそうですね。




B-07 コバルトブルーの骨

何と言うか、そう、秘密基地を作るような年代の、「ごっこ遊び」にも通じる感覚が楽しかったです。
多分、この『骨』は別に何でも良かったんでしょうね。その正体が推測できないものであれば。それを友達と一緒になって地面に埋めるという「儀式」を通じて一体感が高まって、しかし行動を共有した言わば共犯的な一体感だけでなく、さらにその『骨』の正体を一緒になって空想することで精神的にも一体感を高める。『僕たちの共有する世界』というのは、一体感のその最たるものでしょう。
それもこれ、地の文の端々から主人公達が閉塞感を感じているのが伝わってくるから、この空想は彼らのちょっと逃避にも近いストレス発散なのかもしれないし、『誰にも止めることはできない』からこそ『愉しくて仕方が』ない遊びなのかもしれない。
世界観の背景描写はあっさりすぎなほどあっさりしていてこちらに与えられのは『海のない国』である程度の情報しかなく、おそらく願望を込めて現在とは反対の光景を想像したのであろうラストに語られる光景から窺うことしかできない。でもこれ、狙ってやったかな? ちょっと背伸びを始めた、それとも次第に大人になっていく年代につま先突っ込んだ少年の普遍的なテーマを書き出そうとしたかのよう。




B-08 青空をさがして

おおー、日本昔話なテイスト。その気象にまつわる言葉の由来を使った締め方がカッチリはまって、読み終わった後、話があのアニメの声でもう一回頭から流れましたよ。いや楽しい。
それにしても妖怪(神様)の子どもたちの可愛らしいことよ。河童の話を聞いて太陽と青空の世界を見てみたいと思う雨降小僧、氷結と氷解が巧くできない雪童子、擦り寄ってくる雷獣。いちいちほんわかしっぱなしですよ、彼らの姿を想像すると。
しかしこの作品の要点、太陽と青空をという雨降小僧の希望が、彼らがいる時はそりゃ見れないよなあという納得と同時に、それを見た時、彼らはひょっとしたら死んでしまうのでは? という緊張感が常にあって、先へ先へと目を動かすのは「ほんわか」じゃなく「ハラハラ」。そのギャップはこういう話を飽きさせない要の一つだと思うし、ストーリーの作りが巧い。やー、最後までほのぼのしてくれて良かった……。雨が乾いて雪が溶けたら一気に悲劇ですもの。
そしてラストの結末に、先にも言ったように気象にまつわる言葉の由来が利用されてなるほどとうなると同時、あれ? ひょっとして雪童子失恋違う? と思ってしまったのはきっと僕だけじゃないはず。や、なんか相性良いとか言われていたから、つい。
太陽と青空、それに銀色の川を見た三人(二人と一匹?)の顔はどれほど輝いていたのか、それを思うとこう……胸が温かくなりますねぇ。




B-09 紫に染まる

おお、異世界飛ばされファンタジー……と思っていたら『ここみたいに昼から夜が一瞬に変わらなくて』ときてやられた。これゲームの世界ですね? いや、そういう世界、って可能性も多分にありますけど。で、もしゲームだとしたらこの作品の設定は本来SFでしょうか。この世界は意識ごと入り込むタイプのゲーム世界、とか、そういうの。
それにしても出会い頭にゴブリンはっ倒す作家というのはいいですね。武器は鏃のように鋭いペンだ、それか鈍器のように分厚い辞書か、突き抜けてむきむきマッチョというのも……いやいや。
視点は魔王と戦う前の勇者ではなく、それが決戦前に話に来た「始まりの人」というのも演出が効いていて小憎らしい。会話は静かで、『勇者』と『一般人』ではなく対等な立場で話せる二人の砕けた雰囲気が柔らかで、最後の作家さんの見下ろす村の風景と風に揺れる紫煙が情緒的で、それだからこそこれからイスカの向かう先の激闘を思わされる。
きっとこの物語の最後は『紫に染まる空』を見上げる二人の男――そして、それを書き終えた作家の姿でFin……ですね?
ちなみに始めに浮かんだRPGはドラクエ、『ゴブリン』と聞いて次にFFでした。
で、感想書きながらふと浮かんだのは、もしやこれは『当たり前にあることって、大事なんだ』と気づかせるための「プログラム」だとかだったら……なんて僕の妄想。




B-10 君の手、そして始まりの空

文章から染み出してくるような感情。
全てを飲み込む炎の描写がお見事。冒頭の節の『夜空に雪が降っている』からの文は凄いなぁ……。
そして「何が起こっているのか」という疑問を残して回想に持っていき、そこから現在に戻ってくる構成。下手すれば読者を混乱させるだけでしょうに、これが巧く転換されていて話と物語の背景がすっと繋がりを持って入ってくる。
何とも皮肉な巡り合せ、といえばそれまでなのかもしれないけれど、火によって全てを失い、そして新たな人生を得て、また火によって失う。その場面に遭遇してしまった彼女が、逃げもせず部屋の中で座っているだけなのは、それは当然な成り行きかもしれない。
けれどそれを救おうとするブルーの慟哭にも似た呼びかけ、胸にくるなぁ……。
そりゃあ共に支えあうことで生き延びてきた半身にそこまで言われちゃあ、彼女も立ち上がる。立ち上がって欲しいとも思うし、立ち上がったことに喜びを感じる。
ラスト、二人がどうなったかは明示されていないけど、二人の上に『頭上を覆う黒い空』ということは、二人は火災の中から脱出してはいるんでしょうね。でも『どうか、奪わないで』とグレイが言うからには、ブルーはその途中で怪我を負ったのか。それも命に関わるほどの。果たして、生き残れたのか。いや、生き残って欲しい。
そして、その「二人共に生き残ってまた歩いて行ってほしい」というこちらの思いはラストの一文が保証してくれているようで、明確に結末を結ばれないまでも、希望を持って読み終えられ、ほうっと息をつく。
終わりまでも、情に触れる仕舞い方が素敵です。




B-11 青空の涙※注

分厚いサイキックもの、そして、何とも因果な『透』という人間の話。
超能力合戦でありながら、心理の読み合い……というと語弊がありますね、化かし合い? 片方の心が逆転して片方に現れて、それを打ち消しながら目的を達成しないといけないというもはや禅問答のような「喧嘩」が不毛で、しかし面白い。しかも挑む側の透が上回らねばならない相手は真に神に迫る『はるか』。心のベクトルが逆向いていても、せめぎ合う力のベクトルは一方的に相手が上だという不利極まる状況、どうやっても勝てるわけがない「自分」に弄ばれる透は、そりゃ白旗を揚げるしかありませんでしょう。
それにしても歪な鏡なのはこの二人。
社会的な生活を送っていたが故に力が制限されて「人間」である『透』。そのクローンで、力を人為的に増幅させられた『はるか』。作中では妹と呼ばれていたけど、むしろこれは「もう一人の透」で、あるいは「ifの透」じゃないのかなと読み終えてからしばらくして思いました。これは『観察者に成り下がった』透が、そうならなかった自分に手を焼いていて、であるからこそ、『観察者に』成り下がってしまった彼女のどこか傲慢な悲哀が作品の底に流れているのでは? と。
そう考えるとこれは「神」と「神と同じ身でありながら神になり損ねた者」の嫉妬と、(おそらく)隠れた羨望の追いかけっこで、また不毛。救いもなく出口もなく、そうすると最後の涙は、一方のものだけでなく、二人のそれぞれ自覚していない思いを源にした涙でもあるんじゃないかな……と、僕の妄想ぐるぐると。




B-12 Aurora Breakup

やーやーやー、馬鹿だー! グッドなバカだー! ナイス馬鹿!!
……貶してませんよ? 何も。最大の賛辞ですよ? ていうかこの一言こそが過不足なく全てを込めた感想のような気もしますが、ちょっと落ち着いて、以下。

なんというかもう徹底して馬鹿でいいですねー。
おかしなロボットを作るデブでオタクな謎の怪人物と言い、無駄に熱い犬型ロボットといい、異様に燃えてるヒロインといい、一人ちょっと蚊帳の外でボケをひたすら回収しまくる主人公といい、全部が良いバランスで配置されてて「必殺技叫ぶように将棋を指す」という熱暴走起こしまくっている展開も素晴らしい。ってーかDVモードって本当要らんわ……って思ってたらむしろヒロインが発動するし、ここらの使い方も熱さの傍らで巧み。
『ぬおぉぉぉ! 2二銀!』『受けて立つわよ8七歩ッ!』とか思わず将棋ソフト開いて戦跡追っちゃおうかと思いましたよ。
そしてオーロラに関連する出来事は、ハルカちゃんとのデートがご破算、恋人になる計画もご破算で良い感じに馬鹿(誉め言葉ですって)な主人公の中で常に空回りの象徴として徹底されていて、ともすれば読者を置いてきぼりにしてしまいそうなノリでもストーリーが一貫してはみ出さないから、終始作品に没頭させてもらえる。
でもちゃんと――それもこの作品に相応しい形で――オーロラとタイトルを絡めて決着をつけてくれて……ああ、楽しかった!

ところで、ググってみたら『新山崎流』って本当にあるんですねえ……。この作家さんは将棋に詳しい方でしょうか。

投稿者 楽遊 : 2008年02月21日 23:26

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