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2009年08月31日

覆面作家企画4:Aブロックの感想

Aブロックの感想でございます。

盛大にネタバレをかましています。未読の方はご注意です。
明後日の方向に向いた深読みをしている可能性があります。
作品には直接関係ないかもしれないけど読んでいる最中に呼び起こされたイメージ方面に話題を展開すると感想が長くなる傾向があります。
勢い任せにおかしなことを口走っている場合があります。
勢い任せに書いているため、所々読みにくい・理解し難いところがあると思いますが、仕様です。
作品によって感想の方向性が変わります。仕様です。
感想を更新するごとにここの注意書きが多くなっているのは、演出です。単なる思い付きで始めたことですが、今振り返ってみるとしつこいですね。反省です。
あ、作品内から引いた言葉は『』で括っています。

お手柔らかにお願い申し上げます m(_ _)m



A01  締切直前における特定の覆面作家企画4参加希望者の漸近線的記録あるいはマグネシウム燃焼時的アイデア

<!―― ここから本文読む前の感想 ――>

この覆面作家企画4の作品ページを開いた瞬間に目に飛び込んでくるモノスゲータイトル。
きっとネジ子さんも送られてきたタイトルを見て度肝を抜かれたことでしょう。だからこれを一発目に配置しましたね!?

<!―― ここまで ――>


さて、冒頭から幻惑されまくりですよ!
で、笑いっぱなしですよ!
なんだこれ! すげーーー!!
いや、多分、おそらくこの覆面作家企画に参加しようと思った人全てが一度は思うであろうことがいちいち網羅されてるし――ん? ええ、もちろん僕も考えましたとも→『常とは異なる分野』で話を……とか『慣れてるジャンルでいつもと違うセリフまわし』で構築を……とか。そして大目標――『うまいこと覆面かぶって老獪な探偵たちの目をくらませて誰からも当てられない《完全犯罪》を成し遂げたい』! 同意! 同意!!
何度もうなずきながら読みましたとも。
そして何度も読みながらAブロックの参加者さんのサイトに足を運びましたとも。
そうです、僕はこの作品、虚構ではなく事実と踏んでます。見積もりでは90%の確率です。『ラヴなファンタジー』の“な”がもたらす糖度上昇率の二倍の自信です。や、これで外したら身も蓋もありませんが、賭けます。ギャンブルです。少なくとも作者さんの脳内には存在したこと100%確定でございます(←それを言ったら身も蓋も無い)。
さらには『時代が大正末期から昭和初期であれば私の嗜好にベストマッチング。』? はて、確かそのくらいの時代のベストマッチングなお話が当企画にあったような……ああ、そうだ。ここまで読んだ限り<D12 ハイカラ娘と銀座百鬼夜行>がそうですね。さあ! この作品の感想で狂喜乱舞されている方、Aにいるか!?

――いたーーーーーーーーーーーーーー!

この作品は、tomoyaさんだーーーーーーー!!
やたらめったら化学系得意そうだし、というかその専門ぽいし、間違いないと思うんだ、グレイトォ!!
って、あれ? いつの間にか推理過程になっちゃってますね。しかもこの作品を事実と踏むなら最有力候補は並木空さんだったのに(理由:サイトを共同管理してらっしゃるから、お二人とも女性であるから、サイトトップの背景が「夜明け」の写真とも取れるから)、そこらへんすっ飛ばしちゃってるし。でもいいや。決め手は“赤いふちのメガネ”と“ペニシリン”でtomoyaさん! ああ、また推理過程になってる!

……でもね?

本当にこんな感じで読み進めていたんですよ。本文楽しいから一度通読してから探しに行きたかったんだけど、いちいち推理のツボをつついてくるんですもの。
だからこの作品の感想は、これでいいんだと僕は思いました。
ので、次の言葉をもって〆させていただきます。


作者さん、試験(もしくはそれに近いこと)……大丈夫でしたか!?




A02  □□■□□   □□□■□

A01に引き続きインパクトのあるタイトル。
内容はSF。しかし世界観がなかなか掴めない。いや、大枠は掴めるんだけど、詳細には想像の余地がありすぎて、そのためぼんやりとしか掴めない。まず、どうやら「子どもは地球外の人工的な環境を用意された星で、一つにつき一人を育てるシステムになっている」らしい。で、文中の言葉を借りれば『繁殖可能個体である大人』になるまではその星で、教育係兼世話係のコンピューターとロボット達と過ごす。――ということは、おそらく、地球で成長すると『繁殖可能個体である大人』にはなれない可能性が非常に高いということ。なれば、地球は人体に悪影響を及ぼすものが溢れた環境になっている可能性が高い。また、普通情操教育とかのことを考えるなら――そして常に『誤った認識』を恐れるなら、多少は“人間”の教育係等がいた方がいいと思うが(その方がコンピューターと人間を正確に分類して認識できる)、それをしないのは、人間の数が圧倒的に少ないからとも予測できる。
あるいは、もしここまでの推論が当たっているとしたら、そもそも地球に戻る必要が見あたらない。もちろん作中では主人公が“地球に戻る”とは明言されていない。主人公・アスに『大人になったらここに立つのでしょう。そして知らないけれど、故郷と呼ばれる星に行くのでしょう。この【ホーム】を離れて。』と推測されているだけ。
ここで気になるのは、最後に出てきたコンピューターの言葉。
『ようこそ、ロードを作るロードへ。
 わたしたちのロード』
これ、英字で綴れば「Road」と「Lord」で分けるのでしょう、きっと。
『ようこそ、Lordを作るRordへ。
 わたしたちのLord』
かな? もちろんこれは『故郷』にいる人間=Lordで、成長が認められてこのRordを通った者がLordになる、という捉え方もできるけど……もっとね、重大な重みを持っているように感じられるのですよ。
ひょっとして、本当は、人間ってこの子・アス以外は絶滅してるんじゃない? あるいは、数人の子どもを残して、あとは絶滅しているんじゃない? あたかも「人工的なアダムとイブ」みたいに、選別されているんじゃない? コンピューターに。自分たちのLordに相応しいものかどうか、と。

――なんてね?

それにしてもアスの言葉は面白い。頭のいい子だー。現状を全て理屈付けて認識していくのが妙にコンピューターっぽいなぁと感じたけれど、まあ、これはセンセイがそうだから当然の成り行きなんでしょうね。そしてセンセイをあえてモノリスにするのが、粋。“2001年”を思い出しましたよ、作者さん。
あとビンガかわいい。腕組むトビウオ。

……にしても、モノリスか……。
やっぱりこれ、人類アス以外滅亡路線? そして新しくニンゲン導いて文明再構築進行形? でも最後の扉は『こちら側からは開かない』って言ってるしなぁ。


で、ですよ。
意味深なタイトルの意味がここに至るまで解ってないのですが……。
んー、ちょっと煮詰まらないから風呂でも入ってくるか。(以下は反転記事にしておきます)

==

風呂入って時間置いたけどわかんねー! 二進法とかモールス信号とか手旗信号とか点字とか色々調べて比較してみたけど、わかんねー! 一番可能性があるのはモールスなんだけど。大きいセンセイの感情表現から読み取るに。
『ねえ、わたしの声。届いていますか?』って最後に言ってるんだから、何か意味があるはずなのにー!

例えば和音モールス符号で■を「・」、□を「-」にすると最後は「アス」になるけど、そうすると一番目が「イラ」、二番目が「イ」。つなげると「イラ イ アス」になって、何だ? 依頼アス? んー? 「SOSアス」とかだったらしっくりくるのに(^^;
だけどこれしかないんだよなぁ。「イライアス」で名前? ビンガが言っていたように、略されて「アス」なら。ググると「イライアス」って名前の方、結構いらっしゃるし。
もちろん最初と二番目をノイズと思って「アス」でも。タイトルもしっくりくるし。

……ちょっとカンニングしてこよっと!

やっぱりこれでいいのかな? これでいいとしよう!

==




A03  アガトの巡礼

うーむ……なんとも……不思議な読感。
もちろん悪い意味で言っているんじゃありません。具体的に言うなれば、冒頭から最後の方まで、どことなく幻想的な印象を受けたんです。
家族を亡くし、死にかけていた主人公が親切なおばさんに助けられ、おばさんとともに旅をし、おばさんの死に立会い、おばさんの遺志を継ぐように巡礼の道を行き、不可思議な門のある町で弾圧を開始しようという軍を前にし、その攻撃(威嚇?)の最中、その門が『アガトの聖なる門』であるのかどうか分からないと真正直に言う誠実な僧侶と出会い、そして別れる……その流れは戦争や疫病などの非情な現実の中にあり、およそ“幻想的”な趣はないのに、でも、なぜか僕はそう感じてならなかった。
もしかしたら、それは主人公の言葉を喋れない、という特徴からきているのかもしれません。そのうえ彼が自ら発信することがない――身振り手振りでは意思を伝えられましょうが、彼には強いて主張する場面がないことも影響してそうです。もちろんおばさんのために助けを求めるのは一つの主張ですが、それは“彼の主張”ではなく、必要に迫られた他者への要請でしかない――ため、彼の言葉で語られる地の文は、どことなく観察記録のような印象をすら受ける。
だけど、それがラストで急変する。『アガトの聖なる門』を前にして、僧侶に行くかどうかを問われ、そして
『チーン、、、チーン、、、』
という、冒頭にも出てくる鈴の音を跨いだ時、ここに“彼の主張”が初めて出てくる。“我”が出てくると言ってもいいかもしれない。
確かに、これまで彼が全く“我”を出していない、とは言えない。家族への思い、おばさんの死への涙、巡礼を続けようと言うこと、それらは確かに彼の意思であったけれど、どちらかといえば受身の意思決定だった。何かの出来事に動かされた感情に沿う形で動いてきた、と言うべきなのかな。もちろん悪い意味じゃないですよ? 親切にしてくれた人の死に対して泣くことを、死を→受けて→泣くという行為を、ただの意志のない受動的な行動だと非難するような暴論は言いません。
ああ、何か回りくどく言ってるな……。

……そう、主人公は、ラストの段になって初めて、自ら考え抜いて出した答えで自らの行動を決めている。『ここがぼくの世界だ。ここの他にぼくが生きるところなんてない。』と。
それに至るまでが幻想的・あるいは観察記録のように感じられたのは、多分、この力強さの欠如。けれど、それまでの苦しい経験を経てなおそう言い切る主人公のそのセリフを支えるに、その力強さの欠如した部分全体が確固とした機能を持って輝く。そのため当然の帰結のように、主人公の結論が、強く輝く。
読後に感じる清々しさ。
そしてねぇ……。
主人公が決断を下す際に、彼が生きるにあたって大きな影響を与えたおばさんの鈴の音が、その清々しい余韻の中で綺麗に響くんだ(涙)




A04  クロランドの流れ矢

風情は粋でイナセな時代劇。べらんめぇ口調のしたたかオヤジの婿取り記。舞台はファンタジー世界だけど、この作者さんは江戸ものも書けそう。というか書かれていそう。書いてなくとも池波正太郎とか宮部みゆきとか大好きそう!

それにしても鮮やか。
規定枚数原稿用紙20枚の内に、過不足なく見事に書き切りなさったなー。そして登場する人物達の活き活きとしていること! キャラが立つ、とは言いますが、まさにそれ。それも名の出てきたキャラクターが、いずれもその姿が目に浮かぶよう。端的にキャラクターを表現するセリフや描写が秀逸なんでしょうね。例えば『額に門扉のすじ跡を付けた男』というだけでカラバドのイメージのほとんどが固まる。それを補強するのが『呼び止めては人波に流され、用件を切り出せない田舎男』。お人好しっぽさも後々の彼の行動――矢じりをそれほど必死に求める動機にすんなりつながって、だからでしょうね、それまでは優秀な金貸しは人の値踏みにかけても優秀とばかりに彼の出自を鋭く見抜いて損得勘定付けて、早速娘を嫁に……なんて周到にお膳立てを済ませにかかっていたやり手のアリンが(彼の人情もあるとはいえ)一転して“要”の矢じりを晴れ晴れと返す姿が爽快に映るのは。
いやはや、そう、爽快。
最後にちょろっと話題に出された三男坊のミロイが哀れっちゃあ哀れだけど、まぁ、この結果となれば仕方ないやね(笑

そういえば冒頭の一文、『放たれた矢が、いくら「自由だ」と叫んでも、方向は射手によって決められている。』というのは色々と象徴的。
その矢じりをはじめ小道具の使い方が巧みっていうのもあるけれど、この一文が基底部でこの作品をしっかりと支えているから物凄い安定感がある。
これはもう一度言葉を変えてアリンの妻・コーラによってくり返されて、なるほどまるで矢が的に射られるように話が流れてきたと読者に再認識を促してくれる。それから直後に綺麗なまとめが入ってくるんです。『放たれた矢』から始まったこの物語、〆の単語はその『矢じり』。
ん、これもまた爽快!




A05  狼は邪心を知る

お、お? おおおおおお? おお? おおおおおおんやああああ!?


空白行挟んでの場面転換後から結末にかけての僕の偽らざる心境。


(思考整理中)


狼どこーーー!?
邪心はいずこーーー!? あ。こっちは王が持ってた!

と叫んでみたところで、すっごい軟体芸を見せられた気分ですよ、作者さん! え? あれ? 何がどうなってあんなん曲がるの? って感じですよ作者さん!
これまたえっらいチャレンジャーな作品を……ッ。
いやもうねー。状況急転した挙げ句、最後のおかしな留学生のノリに全部持ってかれてどういう感想を書いたものやら(苦笑)
すでに十分作者さんの望んだ反応はしているような気はするんですが……。
とかく、この悪く取られれば「規定枚数で収まらないことに書いてる途中で気づいて無理矢理鬼のような腕力でこの形に圧縮しました」的な展開(←悪口ではないです。正直な感想ではありますけど(^^; ていうか、そうなんじゃないかなー? なんて疑ってます、僕(笑 )。
これをギリギリのラインで成立させているのは、それまでの神秘的な物語の圧倒的な力でしょうね。首だけになりながらも何故か生きている絶世の美女と、神なりし大蛇の取り合わせ。怪奇的で、神話の持つ妖力とでも言いましょうか、不気味なのに美しい。セリフも、地の文も。父王の狂気も、娘の絶望も。
その部分の造りの良さに比例して、そこから叩き落された衝撃もでかいのです。『プリンセスアンドスネークなのね!』じゃねぇ! 道の由来もちっがーーーう!(笑

そしてねー。
半分混乱してたから何度も読み返しちゃったんだけど、愉快な留学生の相手をしていたリョウジこそが『蛇神』でした(ですよね? 神通力かなんかで人間の振りしてるんでしょう?)、というオチにまたものすっごいアクロバットを見せられた感じでしてね? ――え? それ今何回転何回捻り? みたいな。
もうスコーンと作者さんの放った変則フックをもろにコメカミにくらってクラックラです。


ところで。
タイトルの謎が解けないのです。
まさか「おお髪は蛇神を知る」とか「おお神は蛇(へび)心(こころ)を知る」とか「お女将は蛇神を知る」とかの誤変換なんてわけないし。それともタイトルまで釣り針ですか? ぬおおお。


あ、蛇足ですが、この姫様の『優しさだけを持ち得た人格者となるしかなかった』と至るまでの生い立ちを読んだ時、「F09 シーキング☆ザ・プリンセス」が連れて浮かびました。それぞれの解釈(含・小説での使い方)がまた、味わい深い……。




A06  たとえ何があっても

イメージとしては、士官学校かな? 普通の魔術学校じゃ『机上演習』なんてするわけないし。
そして語られるのは、その学校を舞台にした友情物語。『俺』の一人称を地に、中心として描かれるのはどうやら学校で抜きん出た二人。片や現王弟、片や賊将の孫。祖父の代の因縁浅からぬ二人の机上演習での対決、その結果と結果がもたらした一幕を通じて『俺』が慕う賊将の孫・クェスの人となりを描写して、そこから『俺』が何故クェスを慕うかの描写へと移る。
その過程が丁寧だから、すんなりと主人公が堅物に見えるクェスに厚い情をかけているのかが分かる(そして一線越えたら危ない雰囲気も)。
で、分かるんだけれども……いや、事情は分かったし理解もするんだけれども、主人公、呑気に『俺はどうやらクェスを甘やかしているところがあるらしく』なんて思ってないで、厳しくしようよ大事に思うなら! まずこのまま行くと、クェスはまず人望の無さで駄目になると思うんだ。主人公の予想通りに。クェスは他の連中に潰されることはないと言っているけど、その根拠は『俺の成績を上回る可能性はないから』……。うん、学校内で成績を競っているだけならいいと思うけど、実際の場面になったら、人心掌握術とかえっらい大事だと思うんだ。成績がいくらよかろうが、政治的に潰されることはいくらでもありえると思うんだ。ただでさえ、君は賊将の一族と立場が悪いんだから。しかもこれってかなり致命的でしょう? 士官学校らしいからには、将来は軍やそれに類する組織に属して働くつもりなんだろうから。
で、きっと主人公はここらへんにも頭は回っているはず。曲がりなりにも入試で首位を取るくらいだから、頭の回転は速いはずだもの。王弟の“政治力”を見抜いていたところからしても、そうであるはず。
なのに、甘やかし続けるのはどうかと思うよー。
確かに非常に優秀だけど嫌われ者の上司をフォローする人が人望あるため上手くいく、なんて組織もあるだろうけど、自らその役を買うつもりなのかもしれないけど……ん~。
それなもんだから、ラストの覚悟を決めた主人公の決意も、格好いいと言うよりは、不安に感じられちゃってねぇ。
『王族の権威を振りかざすようなことはしないだろう』とか、王弟・ルオンはなかなかの好印象だし、確かに定石を打ち破れるような天才ではなさそうだけど、最後はチームワークで天才に打ち克つタイプにも見えるもんだから……。

群像劇の一部を切り取っているかのような感じもあり、もしかしたら作者さん、この後もストーリーを続ける予定があるのかな?




A07  ドM道

さあ、個性的なタイトルが集まるAブロックの中でもあっちの方向へ異彩を放つこの作品、一体どういう話かなー?
――と、めくるめく変態話を予想してページを開いておりました。作者さん、ごめんなさい。……いや? うまいこと思惑に引っかかったのかな? 逆に。
なるほど、ドM道。どえむみち、と、読んだ方が適切でしょうか。だって、どえむどう、と読んでましたもの。なもんだから、~どう、のようにMの道をひたすら極めんとする(中略)で、作者さんてばよく注をつけなかったな、チャレンジャーΣd(ゝω・o) なーんて思ってました。

しかして実際は……深い。
確かに、僕たちは大抵先人の切り開いた道を歩いているんですよね。ほぼ、何事においても。そこらじゅうに張り巡らされた道路は言わずもがな、例えば武道は先達がそれこそ血と汗と涙と人生を注ぎ込んで積み重ねてきた技術体系を基礎に修得していくわけですし、小説だって、先輩達が作り上げてきたものを下敷きにしている。その下敷きとなる――ここでは道を作る素材・石畳としましょうか、敷き詰められた石の数は呆れるくらいに膨大で、「オリジナルとは何か?」なんて議論が成り立つほど様々な形や色が使用かつ試用されてきている。その上を、温故知新と石畳の一つ一つを足がかりにすいすい進んでいく者もあれば、未だかつて無い石畳を道の中に嵌めこもうと悪戦苦闘する者もいる。それとも、まだ道がない空き地に道を作ろうと血反吐を吐くようにして奮闘する者もいる。道がないということは、そこに道が作れるのかどうかも判らないのに、それでも奮闘する者もいる。ひょっとしたら道の横にそびえる壁を乗り越えようとしたり、穴を穿って壊そうとしている者までも。
いや、本当にね? 一つの分野で、あるいは一つの分野の中の一つの流れの中でパイオニア、と呼ばれる人は本当に凄いと思う。
この作品では、パイオニアの苦悩が描かれていた。自分の切り開いた道を、自分より才能のある者が軽やかに進んでいく姿に嫉妬して、羨望して。だけど、その嫉妬や羨望を植えつける存在――しかも弟に感謝を向けられて、やっぱり苦悩して。
きっと、クロードはずっと苦悩し続けるんでしょうね。必要なだけの割り切りができるだけの場所にはまだ届かないようだから。パイオニア=その道のトップというわけではないことに気づいても、パイオニア=その道のトップでなくとも“パイオニアである”ことだけで偉大であることに気づいても、きっと。

だから変態……いや、人間の価値観から言ったらそうなるんだろうけど、むしろソレの価値観からすれば至極真っ当な感覚を持っている『道』のセリフがこの作品の主軸にがっちりはまっていて、素敵。
というか、作者さんの主張は間違いなくそのセリフの中にあるんでしょう。
『そういう人がいるから、私達は存在し、貴方達は様々な場所をきちんと歩くことができるんです』
本当に、先達の皆さんには感謝――感謝。
そしてもちろん、今現在、道を伸ばし続けている仲間にも、感謝、感謝。



A08  大都会の秘密基地

これまた郷愁を誘う話だなー。
9月8日ということは、地域差があるとはいえ概ね夏休み終わってすぐ。残暑厳しく、まだまだ暑い時節。でも空は秋の顔を見せて、高いんでしょうね。新しい公園の緑の芝生はきっと日を受けてキラキラと輝いている。そこで遊んで、そこに寝転んで、小学校からの仲間と見る空……いいなぁ。
地の文がこちらに語りかけてくるような形を取っているものだから、何だか語り手に過去の思い出を掘り起こすように促されている気分にもなってくる。
ふとした拍子に見つける不思議な道。そこに入っていくと、やはり不思議な空間が広がっている。何本もの鉄の管、見たことも無いような機械、奥がかすんで見えるほどの細い通路。おー、何だろう、子どもの頃の冒険心が蘇ってくるよう。これが、主人公達の年齢がもっと低かったら、テレビの特撮物に出てくるような「悪者の秘密基地」だ、なんて言い出していたかもしれませんね。それとも、そういう体(てい)で、遊び始めるか。あるいは……やっぱり、『一番子供っぽい』と言われるとおり、彼らのようにそこを自分たちの秘密基地にするか。
通路の中にぽっかり空く何もない空間というのも、対象が人工物だからこそ感じる神秘性があって素敵過ぎる。それは一体何のために作られたのか、なんて謎を解きたくもなる。や、実際は実に合理的な理由で用意されている空間なんですけども。

そして……作者さんは、下水関係――というよりも、何らかのインフラ設備に関係するお仕事をされているんでしょうか。
主人公ら三人に(立ち入り禁止区域に入っているのに)丁寧に説明をするおっちゃんが良いですねー。彼の語り口に、主人公らと一緒になって引き込まれているようでした。下水の仕組みについては義務教育中に概要を習っていたけど、またこうして説明されると、おさらいしているというよりちょっと新鮮な感覚が。こういう身近な施設の見学って、楽しいんですよね、意外と(と言っちゃ失礼か;)。

そしてラストの〆方がまた懐かしさを呼ぶ。
中学校だけで別れた友人たちは今頃何をしているんだろうか。
嗚呼、『フェニックス団よ永遠に』!



A09  空の果て、あの道に

何があった!? 一体、何事があったの!?
ちょっと作者さん、これは……これは生殺しですたい!


様相は、死刑囚の、その刑の執行前の述懐。最も幸せであった頃の記憶を、『あの空の下での古い憧憬があればいい』と願う彼女が愛でるように思い返す。
そしてその記憶は、彼女がそれだけを抱えての死を願うに値する幸福なもの。とても可愛らしい姉妹のやり取り。どこか牧歌的で、林檎の木に咲く少し紅の入った白い花弁が二人の少女の無垢を象徴しているかのようで、可憐な記憶に……だからこそ儚さが強く強く滲む(また、花言葉を調べてみると、これまた味わい深い)。

いや、本当にどうしてこの結末に……。

分かっているのは主人公・レンの夫、ヨウが殺されたということ。その彼の復讐をしようとしたキリが、おそらく返り討ちに会う形で殺されたということ。そして、これもまたおそらくは、キリと共に行動していたであろう主人公だけが生き残り、それから――おそらくは、大量殺人を行ったのであろうこと。
もしかしたら、仲の良かったはずの小さな村同士で何らかの諍いがあり、それが大きくなって、村長の息子であるヨウが殺されたのでしょうか。例えば争いを止めようとして、隣村の長の娘を妻に持つ彼が邪魔になって、暗殺、のような感じで。もしそうであれば主人公が殺したのは、その村の人々でしょうか。あるいはキリも、「ヨウの復讐だ」とさらに事を荒立てようとしているのを厭われ、こちらもヨウと同じような形で殺された? となれば、主人公が殺したのは、どちらもの村人達? その後は、誰彼構わず殺して回った?
もちろん、賊が現れて……という可能性も否めないけど、その場合だと、賊に復讐をした主人公には世間の同情が集まりそうだし……時代背景が判らないとはいえ、少なくとも、公開処刑をされるかどうか疑問もあるし……とはいっても事情はどうあれ罪は罪か。
やはり、希代の殺人鬼として捕まり、牢につながれ、そこで妹と同じ名を持つ人間と出会ったことで正気に戻ったのだろうか。
だとしたら、彼女に対する最大の罰は、罪を重ねて行き着いた先で、最も出会いたくない存在に出会ったことだったのかな。




A10  月のゆりかご

初めはシルクロードみたいな所を行く不死者? と思い、次は世界崩壊後の話? と思い、もしや世紀末伝説な方向? と窺いつつ、思わせぶりなセリフや仕込みがストンと落ちるところに落ちた時、今度は言いえぬ寂しさが。

SF。人間が機械的に“不死”を手に入れた後の世界。
この作品の世界観で僕が一番興味を引かれたのは、人間が『子供を作れない』と気づいてから急速に絶望の淵に落ちて衰退の一途を辿ってしまった、ということ。
ここから解釈できることが二つ。もちろん僕の勝手な思い込み・明後日方向の深読みであることは前提としつつ、二つ。
一つは、子供が“未来の象徴”であること。いや、象徴であるだけでなく、具体的に未来を示す指針であること。そのため、それが失われた時、未来への指向性を持つ精神活動――『夢』や『希望』が薄弱たるものとなってしまった。生命体、遺伝子を持つ動物として、その種全体として子孫を残せないと判明した時、例えその種が生き残っていたとしても実質“絶滅”と同質となる。つまり『死んでないから生きてるだけ』、と、無力感に支配されて。
で、もう一つは、そこから人類を――代表として描かれている主人公とヒロインを『生きたものにした』のは、キス。恋心。つまりこの作品の隠されたテーマは、人間は恋がなければ生きられないということなのだよ! ……て、これは言いすぎですね(^^; でも、人が活き活きと生きるにあたって相手を思う心、ここでは「恋」にスポットが当てられているけど、それがなきゃあ味気ない、とはほんのり主張されているようにもお見受けいたします。

それにしても、この世界の『半有機構造体』に造り替える技術は、よくよく考えると少しシュールですね。脳を残すのは分かるとして、思い出のように肉体の一部を腹部に保存する、というのは。
それはもしかしたら全てを機械の体にするということは例えようのない恐怖を呼び起こすから肉体を残すことで精神安定を図っている……のかもしれませんし、文中で『僅かな自分のカケラを腹に仕舞った』と表現されているから、これも穿ってみてみれば自分の言いたいことや「本当の自分」を腹の中に隠して生きている現代人――みたいな風刺が入れられているのかもしれないけれど。



A11  かえりみち

うぬやあああああああ!(←読後の叫び)


初めはねぇ、長らくどこかに行っていた家出少女が突然帰ってきたのかと思ったのですよ。親に会うのを恐れていたり、親が自分のことを待っててくれるか不安がる彼女に対して主人公が怒りを感じたりするから。その手の冷たさだって、精神状態を表す表現だと大きく気に止めることもなかったのですよ――同様に、門の前で彼女と別れた彼が唐突に夏の暑さを改めて感じたのも、それまで緊張していたことを補強する類の演出だと思っていたのですよ。
だから、彼女に甘えられる主人公の胸中は……おそらく彼女に想いを寄せていたのであろう彼は、遠く離れていた彼女に対してどういう思いを抱いていたんだろう。複雑だろうな……なんて甘酸っぱいこと考えていたんですよ。

そうかー、そういうことかあ。

十年後の帰省の段になって、明かされた事実。
十年前の帰り道の描写が一気に思い返されて、イメージがひっくり返り、心を支配するのは切なさ、哀しさ。あの迎え火。単なる行事かと思えば、昔ながらの行事を大切にしているのかと思えば、そうか……あの煙は、死した娘を焦がれて待つ親の涙か……。
しっとりと、丁寧に描かれる主人公と瑞希の交流が、しとやかに穏やかに心に染み渡ってくる。
煙草を使った行為が、煙草を使った演出が、また沁みる。
『忘れてね』なんて悲しいけれど、なんと優しい言葉か。
『忘れない』なんて悲しいけれど、なんと優しい言葉か。
そう言い合える二人にその不運がなければと思うとやるせなく、しかし、その不運に囚われ続けては生きる主人公のためにも死した彼女のためにもならないと思うから、結末には切なさだけでなく、人の人生が持つ強さも感じられて……静かにページを閉じる。

そして、叫ぶんだ。
やるせなさとか切なさを吐き出すために。うぬやあああああああ!!




A12  もんどう 注

漢字と句読点って大事! ページ開いた瞬間吹いた! そしてもんどりうった!
『4』で句読点が入った途端にぐっと読みやすくなるのは文字のマジックですね。
この文、誰かが読んでいるのを聞いていた方がより理解しやすいような気がするけれど……。

さて。
孫子の教えを紐解かず、僕なりにこの問答に挑戦してみる。


=====


 兵は国の大事にして、施政の地、存亡の道なり。
 ゆえにこれを計るに、五事をもってし、これを比ぶるに、計をもってして、その情を求む。
 一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、五に曰く法。
 道とは、民をして、上と意を同じくせしむるなり。
 ゆえに、もってこれと生くべく、これと死すべくして危うきを恐れず。
 天とは、陰陽、感謝、時勢なり。
 法とは、局制、貫道、修養なり。
 およそこの五者は、将聞かざることなきも、これを知る者は勝ち、知らざる者は勝たず。

 ゆえに、これを比ぶるに、計をもってして、その情を求む。
 曰く、主、いずれか有道なる。
 将、いずれか有能なる。
 天地、いずれ変えたる。
 法令、いずれか行わる。
 兵衆、いずれか強き。
 士卒、いずれか習いたる。
 賞罰、いずれか明らかなる、と。
 我、これをもって勝負を知る。

 もし、我が計を聞かば、これを用いて、必ず勝たん。
 これに留まらん。
 もし、我が計を聞かずんば、これを用いうるといえども、必ず敗れん。
 これを去らん。

 それ選奨講衆して、その功を修めざるは、凶なり。
 名づけて、飛竜という。
 ゆえに、曰く、名手はこれを重んばかり、良将はこれを修む。
 理にあらざれば動かず、得るにあらざれば用いず。
 危うきにあらざれば、戦わず。
 主は怒りをもって、士を起こすべからず、将は憤りをもって、戦いを致すべからず。
 理に合して動き、理に合せずして止む。
 怒りは、もってまた喜ぶべく、憤りは、もってまた喜ぶべきも、亡国は、もってまた存すべからず、死者は、もってまた生くべからず。
 ゆえに、名手はこれを慎み、良将はこれを戒む。
 これ、国を安んじ、軍を真っ当するの道なり。


=====

と、考えてみて。
んーと、

=====

 軍は、国の施政の基盤を保ち、また国の存亡にも関わる大事なものである。
 そのため、軍の質を見るためには、五つの重んじなければならない事をもって見、また比較のためには計画立って内情を求めねばならない。
 五事とは、道、天、地、将、法である。
 道とは、民の指針を主君の針路と同じくするものである。
 そのため、民は主君と生きるべきで、また主君と死すべきものとして危機を恐れなくする。
 天とは、陰陽、感謝、時勢なり。
 法とは、局制、貫道、修養なり。
 およそこの五者を将が聞いたことがなかったとしても、これを自然に知る者は勝ち、知らざる者は勝たぬものだ。

 そのために、これを知るか否かを知るために、計画立って内情を求める。
 主君は五事のいずれかを保持しているか、どうか。
 将に有能な者はあるか。
 天地に変わる兆しはあるか。
 法令は遵守されているか。
 軍は強いか。
 士卒は訓練されているか。
 賞罰は明らかとされているか。
 我は、これらを基に勝負(勝ち負け)を知ることができる。

 もし我が計を聞くのなら、これらを用いて、必ず勝つ。そしてこれだけには留まらない。
 もし我が計を聞かないのなら、これらを用いたとしても、必ず負ける。それだけに留まらない。

 五事について選奨講衆して、その功を修めないことは、凶である。
 名づけて、飛竜という。
 そのため、名手はこれを重んじ、良将はこれを修める。
 筋の通ることでなければ動かず、持っていないものは用いない。危機でないのであれば、戦わない。
 主君は怒りを理由に挙兵してはならず、将は憤りを理由に戦ってはならない。
 合理的であれば動き、合理的でないならば止まる。
 怒りや憤りは後にまた喜びをもたらすものでもあるが、それにより国を滅ぼしてはならない。死者は、生き返ることはない。
 そのため、名手は怒りや憤りを慎み、良将はこれらを戒める。
 これが国を安定させ、良き軍を有する方法である。


=====

かな?
何となく意図は分かるような気がするけれど、ところどころで――例えば『ひりゅう(飛竜? “飛竜”は英雄を示す言葉でもあるようだけど)』とか判らないところがあるから理解はしていない気もする。それ以前に解釈からして赤点な気もする。


うん。


やっぱ逃げましょう。

三十六計逃げるにしかず。
作者さんもそう言ってるし。


……と、言いますか。


作者さん!?
これ、正解発表後に原文(と、むしろ解説を)よろしくお願いいたします! 引用元書いてあるけど資料がないよぅ!
――と、言いますかっ!
これで作者探しって、いくらなんでも消去法しかないのでは? それとも、兵法に造詣のある(ありそうな)方か!?






にしても、このAブロックは企画の先陣を切るブロックながら、色んな意味で挑戦的な作品が多かった気がします。
この企画ならでは。
満腹満腹。

投稿者 楽遊 : 2009年08月31日 22:27

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コメント

はじめまして、楽遊さん。覆面作家企画4・Aブロックの永坂と申します。遅くなりましたが、感想をありがとうございました。
推理過程の入り交じった感想、大変楽しく拝読いたしました。目標であった『完全犯罪』は達成することができませんでしたが、これほど強く同意してくれる方がいるとも思っていなかったので、書いて良かったと思いました。
楽遊さんの『――み・ち――』を拝読したとき、うまく言葉が出てこないほど「これはすごい!」と感銘を受けましたが、まさか拙作の『この題材ならばエセ文学風になり…』のくだりが楽遊さんに突き刺さるとは思ってもいませんでした。何気なく思ったことを回りくどく言ってみただけだったのですが、思わぬ反応が頂けるのもこの企画ならではの醍醐味ですね(笑)。
印象深いタイトルにも拙作を挙げてくださり、ありがとうございました。

投稿者 永坂 : 2009年09月14日 23:20

永坂さん、はじめまして!
こちらこそ感想をありがとうございました。しかも感銘を受けたなんて、嬉しいお言葉を重ねていただけてさらにまた喜び倍増です(^^
それにしても、僕も心底『完全犯罪』が目標だったのですが……名探偵さん達は鋭いですね。今回はちょっと自信を持っていただけに、かなりの orz でした。なんだか覆面作家企画の回を重ねるごとに探偵さんの精度が上がっているような気もしますし(苦笑)。お互い目標達成ならずで残念でしたが、次回があればまた狙ってみましょう!

そして、永坂さんの作品のタイトルは本当にビックリしました。あれは凄い。あのタイトルはそれだけで“掴み”はオッケーですもの。見習いたいセンスです。
また、作中のあの一文。まさか作者さんは提出前の僕の心を見透かしたのか!? ってあり得ないことを思わず疑うくらいの衝撃でした(笑)。確かに思わぬところに思わぬ反応をいただけるのはこの企画の醍醐味ですね(^^

最後になりましたが、『印象深い作品』に拙作を上げてくださって光栄でした。本当にありがとうございました。
それでは(^^ノシ

投稿者 楽遊 : 2009年09月15日 22:14

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