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2009年08月06日

覆面作家企画4:Cブロックの感想

Cブロックの感想でございます。

盛大にネタバレをかましています。未読の方はご注意です。
明後日の方向を向いた深読みをしている可能性があります。
作品には直接関係ないかもしれないけど読んでいる最中に作中文章から呼び起こされたイメージ方面に話題を展開すると感想が長くなる傾向があります。
勢い任せにおかしなことを口走っている場合があります。

お手柔らかにお願い申し上げます m(_ _)m



C01  迷い人の道標

(※派手に誤読・誤解釈していたので最後の方の世界観の部分を少々改訂しました@090807 PM20:30。あ~、恥ずかしい!orz)

インデントなし、短文中心、一文で改行、三点リード等記号での感情表現、おそらく携帯電話で読むことを前提にしている文章。しかも読んだところリズムに乗ってからはスラスラ突っ掛かりなく読めたから、この書き方に相当慣れているとお見受けする。……これ、もしフェイクだとしたらかなり探偵泣かせじゃないかな?

読み慣れない形式の文章だったので初めは戸惑いましたが、先に書いたように独特のリズムを掴んでからは一気に読みきれました。考えるより感じる、という風合いで、読む速度を上げると主人公の焦りがよく伝わってくる。自問自答の繰り返しが効いているのかな。大部分で主人公がパニックしっ通しだから、つられて作品を彩るのは動揺と戸惑いばかりでつかみ所がなく、その中でポッと確かに灯っているのが『二人』の絆だけだから、余計に「ああ、この二人は以前は相当に愛し合っていたんだな」と分かる。
ジャンルとしては「異世界迷い込み」に「転生」が加わっているのでしょうか。おそらく恋人と死別した王子の下に、その恋人――『魂の迷い人』になって別の世界に生まれてしまった恋人が帰る……その物語の導入といったところ。なかなかに謎が散りばめてるし、最後の部分で語られる世界観も独特。

そして妙に興味を引かれたのが、その最後の世界観を読んだ時。この作品、先に書いたようにジャンルは「異世界迷い込み」ですけども、ラストを読む限り『迷い人』の魂が元の世界に戻るための道を通じて二つの世界に交流が生じている状態になっているもよう。
きっと、この後二つの世界をつなぐ道を得た少女は『本当の居場所へと帰る道』と語られているように、いずれ王子の下に帰るのでしょう。でも、もしその“帰り方”が彼女の得た『道』を通じて一方から一方の世界に彼女が帰るのではなく、彼女の得た『道』を通じて二つの世界が一つになってしまうことで結果的に帰る……というような展開になったら相当壮大な話になるだろうなぁ、と。
……ああ、いやいや、これは蛇足ですね。
だけど、この『道』にはどうやら『眠り』が大きく関わっている。主人公も再三自分の置かれている状況を夢かと疑っているし。『道』を渡るには『眠り』がなければならないのかな。ここらへんも作者さんは考えているような気がするなー(シリーズ化を考えているにしろいないにしろ、裏設定は膨大にありそう)。


一応書いておこっと。
フェイクでなければ千里さんだと思うのです。




C02  峠越え

熱い。
何が熱いって、お師匠さん。知恵者・軍師ストンデン。じいさん、凄いお人だ。
戦時において大国の敵将を捕らえるという『完全勝利』の強烈な誘惑をさらりと流し、あくまでも自分の(自国の)置かれたその『戦争』の最大の目的を見誤らず、相手と相手の背後関係を含めた力学を完全に把握した上で最大の戦果を得る格好良さ。
交渉時の場面では、熟練・老獪な棋士の、たった一つの駒の動きで相手の駒の動きを殺し、さらには同時に大駒の喉下に剣を突きつける熾烈な――それなのに極めて静かな、芸術的な一手を拝見したかのような興奮が。うおーッ、狸ジジー!(褒め言葉)
そしてねぇ、ずっと気になっていたのです。冒頭のワンシーン。弟子が追っ手に追われている場面。帝国との戦争の最中の場面なのか? 交渉が決裂して師が殺され国に逃げ戻るところなのか? あれ? ガーゴル「完勝」しちゃった。じゃあ……? と。
その疑問が氷解した時に訪れたものも、また熱くて。
何が熱いって、お師匠さん。知恵者・帝国を実質コテンパンにして叩き返したくらいの軍師です。帝国の内部情勢まで読み切っていた古狸です。本来戦争に至るまでの無礼ではなかったとはいえ、建前上今回の戦争の原因となった王子の資質くらい見抜いていたことでしょう。自分の末路も予見していたかもしれない。いや、さらにその先、弟子の末路、主君の末路、王国の行く末までも。『好きに生きるがええ』という言葉にはどこか諦観が感じられて、そう思うのです。でもね? その生き様には熱いものを感じはするけれど、何か忘れていっちゃいないかい、師匠。最後に残す言葉は本当にそれでいいの? きっと、未来の利よりも現在の利にまだ目を奪われてしまう弟子に、遺す言葉はそれで良かったの?
弟子のベルクラム。本当にそれでいいのかなあ。その選択は、知恵者の弟子にしてはあまりに安直に過ぎやしないか。そりゃあ王国にいれば命を狙われるかもしれない。それよりは身の安全を確保した上で復讐に駆られる方が楽かもしれない。けど、それは小国の戦力をもって大国を撃退した軍師の弟子としては、あまりに策がないんじゃないかなぁ。その選択は師の守ったものも壊すし、何より、師がそのような弟子しか育てられなかったと、その泥を師の顔に被せてしまうと思うんだ。暗君に釣られて君まで落ちなくても、いいと思うんだ。
知将の見事な戦いの末、何とも言えぬ物悲しさが、峠を越えて押し寄せてくる。



C03  来客御礼

楽しいなー。
おかしな状況に置かれた主人公の饒舌な混乱が楽しいなー!
にーやにやしてましたよ、ずっと。エセ中国語のリーファ(音声某ジャンプアニメキャラで自動再生)もいい味だしてる。うん、色んな意味で怪しさ満点だ! しかもいきなり壷を売りつけようとは……作者さん、色々狙いおったな!?
冒頭初っ端の某ロボットや王国やらを想起させるの段階から小ネタが仕込まれてましたが、作中の小ネタも面白い。小さなネタが集まって、笑いになる。『念仏授業』とは言いえて妙。いましたいました、そういう授業をする先生。あれ不思議ですよねー、何であんなに眠たくなるのか。『なんて異世界人』。いやきっと後頭部から落ちた相手もきっとそう思ったはずだよ。まさか同名だとは思わないだろうけど、って、『客』とはまた思い切ったネーミング! てっきり普通に使われる意味で『お客』が万来だと思ったよ! この一捻り、作者さん、狙いおったな!?
混乱しながらも女性の体に目を獲られたり、さりげなく交友関係を分かりやすく表現したり(見崎くん>自分>矢立くんな感じなのね)、頬骨ミシミシいわせそうになったりと、いやいや読んでて妙に好感を与える主人公。ラストのリーファの細かい芸も含めてキャラを立てるのが上手い。
もうね、楽しませて頂きました。
あと主人公はガムと交換したお守りは可及的速やかにお払いにもってった方がいいと思うんだ。それと食べ物を提示したのはミスかな。リーファが手持ちのガムを食べ切った後で、もし彼女がその味を恋しくなりでもしたら再び喚び出されちゃいますよ? お呪い――もとい、呪いで(笑

そうそう読み終わってから「ん? お題の消化してたっけ?」っと思ったけど、そういや剣道なり道具なりで消化してましたね。さらっとやってのけたなー。ああそうだ、「異界に繋がる道」もそうですね、きっと。ていうか……むしろこっちか?



C04  選ぶべき道

ファンタジー、ハーフエルフ、魔法……これぞファンタジーといった風味が口一杯に。実に美味だとです。
お話としては長編の導入部、といったところ。ちょこちょこと出てくる『専門用語』に世界観の奥行きを感じる。
――と、言いますか。この作品も作者さん、膨大な裏設定を抱えてそうだなー。きっともっと書きたかったことがあると思うんだ。でもそれを詰め込むと規定を軽く超えるから自重したと思うんだ。ハーフエルフというからにはエルフもいるはずだし、『魔術師の高嶺の花』というからにはこの世界において色んな意味での力学的にも重要な存在なんでしょう。『力を持つが故に苦しんできた』とさらっと語られているけど、ここに詰められた情報だけでイディスの過去が推測できる。そして、その彼を救ったのがフィーなのだろうと。メアリ姉さんもわりと重要な位置を持っていそう。
さらには『人身御供』だったり、領主に人身御供を差し出せば天災を防ぐと言う存在(イディス曰く『意味無い』そうなので、悪徳魔術士団体あたり?)があったりと、先を匂わせるものが一杯で、この作品の時間軸を現在として、過去にも未来にも興味を抱かせてくる。ラストで『最強の』存在が主人公側(というより、この“二人で”主人公か)にいると書きながらも、しかしその言葉はけして安堵をもたらすものではなく、途中の魔法行使の折の苦しげな描写等から未来にドキドキハラハラの種――不安を残してる。
……さてはこれ、かなり書き慣れた方が書いたな? 例えば、中・長編あたりで連載を何本か持っていそう。特に凸凹コンビのバディものとか好きかもー(前回正答率壊滅野郎のぼやき)。

ところでイディスの『意思はあるけど意志はないね』という言葉は、長命の者の言葉とすると何とも寂しい響きがあります。この言葉がイディスというキャラクターの性質の肝になるんでしょうねぇ。でも、それはあんまり退屈じゃないかい? それともフィーに意志決定を委ねて二人で一人、なのかな?




C05  sai-ai

疎通しているようで行き違っている友情……とでも言うのかな。
冒頭二行目から不穏な空気を注ぎ込まれる。ヨハンとシモン、二人の関係性が全く見えない段階から、何かしら不安を掻き立てられる筆力。ネガティブな表現が続いて、この文章の支点を担うシモンの性格が掴み取れてくる。コンプレックス。その塊。そしてそれが分かると同時に、対照的なヨハンの人物像が掴み取れてくる。ある程度二人の関係が分かったところで現れるのは不可思議な女性。緊張感が高まる。ホラーもの? そんなことを思いながら読み進めていくと……
そうかぁ、そういうことか……
しかし謎が解けた後の、支点をヨハンにしてからの節。その、やるせなさ。
ヨハンは良い奴なんでしょうね。目鼻立ちも良く誰からも好感を持たれるタイプ。シモンから描くと『他人を意のままに動かすことに長けていた』『大人まで手懐けられたヨハン』と上目遣いに唇を噛みながら言うように表現されるけど、多分、素直に、無邪気な好漢なのでしょう。だからこそシモンも、ヨハンに悪感情を向けながらもヨハンと友達でいた。最後に助けを請うて呼んだ名がヨハンであることから、それは間違いないと思う。ヨハンがおそらくはシモンを庇護の対象のように見ていたように、シモンはヨハンを保護者のようにも見ていたとも思う。だけどそれは表向きのことで、裏では違った。シモンはヨハンに頼りながら、ヨハンを憎んでいた。でも憎みながらも、好きだったんでしょう。好きでたまらなかったんでしょう。ああなりたいと、きっと思ってやまなかったのでしょう。二人同時に愛した女性が自分を選んでくれたというのに、それでも――いや、もしかしたらそれだからこそ、それまで以上に強烈にヨハンと自分を比べずにはいられなくなって……。ヨハンが『男としてシモンに敗北した』と思うように、シモンも「男としてヨハンに勝利した」と思ったのかもしれないけれど、もしかしたら、だからこそそれが信じられなくて。そうしてコンプレックスを抱かせる対象が、“自分に負けてはならないヨハン”が、こんな自分に負けるなんてあるはずがない。これは何かの間違いだ――と、それでアナスタァシアにまでも疑いの目を向けるようになってしまったのかも。
そして、いつか“自分に負けるはずのない最愛のヨハン”に最愛のアナスタァシアを奪われると――もしくは“そうでなければならない”と思い込んで、それを代行した。そしてそれを代行することは、羨ましいヨハンと同一の存在になることでもある、と。
……と、ここまで犯罪者の心理を想像して、まあ、犯罪者の心理を当てたところで(そのケースのストーリーを描く以外に)何にもならないと思いながら、それでも考えてしまって。
でも、嫉妬じゃないような気がします。シモンを動かしたものは。逃避、だったんじゃないかな、と。
きっと、例えシモンが動機を全て真実語ったとしても……お互いに少しばかりでも理解しあえることは、結局出来ないんじゃないかな……。




C06  ワン・ラスト・キス

うお、このブロックは導入編タイプが多いですね。01と04、02も加えればこれで四つ目。

形式としては囚われのお姫様の救出譚。けど、この話のヒロインはお姫様、というよりはもっとこう……神聖、とか神秘的な印象が。政のため世俗に身を晒すようなことはなく、例え表に出る時も薄布で視界を遮るとか、絶対に姿を(選ばれた者以外の)人目に触れさせないけど確かにいる絶対的な信仰対象というか。口づけ=婚姻とすれば、それなりに宗教系の匂いもしますし。
物語は既にヒロインが救出された後。彼女を救出したヒーローはモノローグの中に消え、今彼女の傍にいるのは荷馬車を走らせるヒーローの親友。
初めは随分記号と小文字を使ってヒロインの言葉を消すなぁと思っていたけど、物語が進むにつれて記号が段々と廃されていき、それに従ってヒロインが心を持ち直し、強く決意を立てていくのを視覚的にも表現しているのがお見事。最初に彼女の言葉の表現方法から感じていた頼りなさが、最後には完全に払拭されて気持ちよかったです。
そしてヒーローに『無口』と言われていたけど意外やよく喋る親友とヒロインの掛け合いが楽しい。しかも親友さん、結構ユニーク。……ヒーローさん! 早く追ってこないと親友さんの方がキャラ立ちまくっちゃうよ!

ところで、そのヒーローさんですが。
口づけ=婚姻、ということは、その時点でヒロインの夫として確定してるってことじゃないのかな。で、この確定は物語的な意味で言うわけじゃなくて、この世界観的に。となると、多分、このヒロイン……の一族に手を出すことも――多分触れてもいけないくらい――相当に重罪なわけでしょう。掟とかそういうのが鉄壁っぽいし、もしキスしてたのを目撃されてたら、その時点でヒーロー(神聖なヒロインの神聖な夫)を殺せる人物っていなくなるんじゃあ……少なくとも追っ手程度の身分では。
もちろん「見てない!」で押し切ることもできるだろうけど、でも気後れするんじゃないかなぁ。そうしたら救出には成功しているだけの腕があるんだから、ヒーローはきっと生き残っていることでしょう。なぜならそれこそヒーローだから!

――と、ここでは語られぬこの物語の結末がハッピーエンドだと勝手に思っているわけですが……ダメかな?




C07  おばけの道案内

TOICAは……東海地方のかぁ。ひとまず、粟原温泉の方々はグーグル先生に「もしかして:芦原温泉――じゃねぇ!」と怒っていいと思います。

初め、おばけの道案内って「おばけの道案内についていく」と思ってました。冒頭の裕人さんの母親とのやり取りで裕人さんが死んでいるのが分かったから、裕人さんにどこかに案内されるのか――と。そしたら、逆でした。そうか、「おばけの道案内をする」方だったのですね。この発想は面白い。魂……精神的なものに物理的な距離とか地形が関係するとはあまり結びつかないけれど、確かに確かに、帰ってきてみたら、あれ? この町こんなんだったっけ? って迷いますよね。
しかし、それにしても希鈴ちゃん、辛い仕事につきなすった。
こういう力を持っていると……そう、“そういう”時、特に辛いですよね。少なからず、希鈴ちゃんは裕人のことを好いていたのでしょう。というより、はっきりと好きだったんでしょうね。何しろ全く理解できない、裕人の学んでいたC言語の入門書に挑戦するくらいですから。そしてねー、このプログラムの勉強。冒頭で読んだ時はただ故人の考えを知りたいという願望が強いゆえだろうと思ってたんだけど、最後の叫びで亡き人の人生を背負おうという願望なんだと解って、同時にどれだけ希鈴ちゃんが裕人のことを想っていたのかが解って……悲しい。葬式の描写で主人公にとって裕人が心の中でどれだけ重要な位置を占めていたのかは分かっているから、余計に哀しい。
そして“その時”、どう言葉をかければいいかなんて、判りゃしないよね。自分の心情もある、相手の心情もある、自分の仕事は『おばけの道案内』――その義務感、親しい相手を失った悲しみに、彼の悲しみへの同情。辛い仕事だよなぁ。傍にいてくれると分かっているのは幸せなことかもしれないけど、彼のいない日常を生きていくには……言葉は厳しいけど彼を切り離すことも必要になってくるだろうから、それもまた辛い。ラストは綺麗に、前向きに終わったけれど、少し、不安。
だけど大丈夫かな? 希鈴ちゃんは結構強いようだし。裕人さんも強い魂のようだし。


……ところで、恥ずかしながら『希鈴』ってどう読むのか掴みきれなかったのですが……「きすず」? それとも「きりん」……でしょうか?




C08  変化妖怪花火道

あー。
はしゃいじゃったんだねぇ。
夢中になっちゃったんだねぇ。
もう夢中になりすぎて、現の思考力を失っちゃったんだねぇ。
なんともはや、お祭りだものね。気持ちは分かるよ。うん。僕も今、そんな気分だもの。祭りのハイテンション。それも久々の祭り、待望の祭り、待ちに待ったものだったなら……それも、難しい注文に見事応えてみせたとなりゃあ高揚感も素晴らしいだろうさ。高揚しすぎてまた燃え出しちゃうのも分かるよ。
でも、そりゃ駄目だ(苦笑

比較的短い作品だけど、濃度は十分。花火大会にかける妖怪たちの様子が楽しい。そしてそれを毎年気味悪がらずに楽しむ花火師たちの心意気も気持ちいい。
そこまでの――再開した花火大会当日までの流れが見事にこちらの高揚感も高めてくれるから、なおさらにその失敗は痛いなー。消えない花火に風情はないもの。イルミネーションの風情はあるかもしれないけど、花火特有の情緒は消える。そしてそれを妖怪が分かっているってのがまた良い。妖怪の姐さんの舌打ちには同意しかない。
だけど、また来年も頼むよ?
今度はちゃんと散るやつで。
人の風情を解る妖怪がいるなんて、そいつが人の炎に紛れて感嘆誘って魅せるなんて、なんとも風流な話じゃないですかい。
そんで姐さん。ドンドン上がる花火を見ながら、ビールでも飲みましょうよ。枝豆でも摘みながらさ。花火師の親方も待ってますぜ。




C09  この道の終わり 注

もうさー! なんとかしようよー! なんとかなろうよー! いい人過ぎると思うんだ、君も彼も兄貴もさー! いいじゃない! 百年安寧が約束されてるんでしょ!? ならいいじゃない、その年月宣託の巫女姫がいなくても! 手はあるじゃない! 『予知できなくなっちゃった』その一言を貫きゃいいじゃない、だってその予知は君以外に見る者はない。てことは君の言葉の正否を確かめる術はない。君が見えないと言い続ければそれだけでお払い箱じゃない、お払い箱になったら想い人と遠慮憚りなく結ばれられるじゃない! いや! こうなったらいっそ先に結ばれて穢れを得れば……って、ああ、その場合裁かれちゃいそうか……。

もうねぇ、こう、苦しいよねぇ。運命を知っていて、その運命を変えられないことを知っていて、そして予見した運命をなぞってしまうのは……。
個人的に。
そういうのはどうにかしたいと思ってしまう。この話の主人公の語りが無念に溢れて、葛藤と躊躇いに満ちて、苦悶と慟哭で彩られているからこそそう思ってしまう。我慢なるかーい! なんとかしようよー! 未来が見えるなんて無敵じゃない! 色々選択肢をこつこつ変えてみようよ! きっと何とかなるって気の遠くなるほどの選択肢の選別が必要かもしれないけどさ!

……とね。憤懣やるかたないのです。読み終えた後、彼女の涙を憐れに思いつつも、地団太踏むのです。
それもこれもこの作品が良く出来ているからこそ。
けれど良く出来ているからこそ覆したくなる読者の心情。
未来予知のパラドックス――自分の行動・心情が歯車に組み込まれているのでは? 自分の言動こそが「その結果」を招くのでは? と、「鶏と卵どちらが先?」論のような、どうにも答えの出せない状態。
でもさあ、なんとかなると信じたいじゃない。信じたいのよ。くそーっ、彼よ、想い人泣かせたまんまで素直に逝ってんじゃない! 戻ってこーい!




C10  ラブストーリー

作者さんがどこまで主人公の正体を隠そうとしていたのか判りません。僕がピンと来たのは事故後の食事のシーンでした。そしてその直後の『物損事故』で確信しました。――っていうか、ここで正体を匂わせているからここまでは隠したかったのかな? というより、ここで確信するように仕組んでるのかな? えぇっと、何と言うか、作者さんの計算通りにやられてますね、僕。くそう。
で、そこからは主人公の姿は僕の中ではコーギーでした。微妙にすっとぼけた感じの口調が可愛らしく、ああ、飼い犬がこんな風に思考をぐるぐる回してくれていたら飼い主も嬉しいだろうなあ! と。ええ、僕、わりと動物好きですけどペットいなくて。植物は育ててますけど。今年は日照不足で元気がないんだ……。最近胡蝶蘭に花芽が! って喜んでたけど、改めて調べてみると根っこの可能性もあることを知ってちょっとしょんぼりなんだ……。
っと、脱線脱線。

さて。
しかし、このほのぼの温かい物語の中でも一点暗い影を落としているのは、虐待の話。ペットにまつわる嫌な話は、ペット――特に飼い犬の数がいつの頃からか爆発的に増えた頃から耳にしますが……こればかりは、良い飼い主に当たるかどうかの運次第なんでしょうね……。誰もがペットとの最低限の正しい付き合い方を心得ていればいいんだろうけど、自分の子どもを虐待するのが人間ですしね……ああ、逆に自分の子に虐待しててもペットは可愛がるパターンもあるのか……うーん。
考えさせられる社会問題に軽く触れつつも、それでもこの話が温かいのは、いや、逆に、だからこそ温かいのかな。ラブ君、撥ねられたのはアレだけど、とかく良い飼い主さんに出会えて良かったねぇ。ジュン君もトラウマ払拭できたみたいだし、良い奴だし、プロポーズのシーンはぐっと来たよ! ん、良きかな良きかな。
そしてタイトルの『ラブストーリー』。三つの意味に掛けられてたんですね。『君とジュン君』のラブストーリーと、『君とジュン君と僕』のラブストーリーと、『ラブ』のストーリーと。上手い!

……あ。そういやラストでこの仔尻尾振ってますね。コーギーからダックスかチワワに修正しとこ。


最後にもう一度脱線しますが、一言。

もうさー! ネジ子さーん! C09の直後にこの話は無しだよー! 見事に感情乱高下、やられましたよー!




C11  ある冒険者夫婦の帰郷

ラブでラヴが続きますよッ。
――と、言いますか。
ツッコミたい。ひっじょうにツッコミたい気分で読み進めてました。うん、ジャックさん、僕は貴方とひっじょうに心境シンクロいたしました。『さて、一体どうしたものか。』まさにこれです。これ以外にありません。めっきり二人の世界に入り込んじゃっている若い夫婦のかっちり説明不足の個人的な会話をただ流されちゃあ、そう思うしかありませんとも。でも、パーフェクトだと思います。そのお答え。その状況ではそれしかないと思います。
……と、言いますか!
いくらなんでも自分達のスイートワールドにひきこもり過ぎですよ新婚夫婦! ごちそうさまです!
いや、交わされる会話から垣間見える情報から薄々何となーく元敵同士というのは感じておりました。文章全体的にコメディ調、であればその展開もまずおかしくない。となれば今まで命を懸けて戦っていた相手、命を懸けていたからこその熱がそのままハッピーワールドを醸成するのもおかしくない。そして、やはりの勇者と元魔王。ラストバトルの秘密兵器:プロポーズ! そいつぁ仲間も唖然としただろうさ! 勇者側・魔王側、どっちのメンバーも噴き出したろうさ! いいぞ! もっとやれ!(←オイ

こういうお話は楽しんだ者勝ちですねー。いやいや、田舎に帰る勇者と元魔王。つまりはこの世で最強の夫婦。田舎の大自然の中で育まれた二人のお子さんは……果たして、どういう風に育つのやら。きっと、世界を面白おかしくしてくれる人物に育つでしょうねー。家族で勇者と魔王ごっことかしてそうだ。や、ごっこ、どころか文字通りそのまんまなので洒落にならないスケールになりそうだけど。ていうかその前に夫婦喧嘩ものすごそうね。
……。
故郷の村人、逃げてー!




C12  八月の空蝉 注

読み終わった後の気分といったら……20ページの枚数制限の中、二転三転する虚と実。真相が暴かれ、「真相」が否定され、新たな“真実”が突きつけられて、う、うおおお。
ちょっと説明が急がれているのは枚数制限のためでしょうけど、それでも油断するとAがBでBがBでBはAで? みたいに頭がこんがらがる話の要点をしっかり逃さず書いてくれているから、二人の少女の皮肉な運命が……うおおお。
じっくり描いて長編にしても耐えられるでしょうね、これ。戦後混乱期が作り出した謎――にして、人間の業というか親の情というか、それがために生まれた人生の交錯。サスペンスの色もあり、人間ドラマの色もある。いや、というか普通、これは長編、短くても中編ですって。それをこの短編に収めてみせた作者さんの力量に唸るばかりです。二時間の特別ドラマにしても面白いと思うんだ!

そして、何より唸るのは『お嬢様』。その存在。
これはまた、怖い人ですねぇ。そして強いお人だ。悲しみも大きいだろうにそれを嘆きという形で(途中は演技分が多いと判断)表には押し出さず、許せないだろう屈辱を与えた相手にこの上ない復讐を返して。その最後のどんでん返しはもうグロッギー状態にしてノーガードで顎にもらいました。ノックアウトです。
いや、でもね確かにその可能性は考えるべきだったんですよ。死んでねぇんじゃね? と少しは考えもしたんですよ。でも、すぐに打ち消しちゃったんですよ。だってさあ……そもそもグルって、探偵とお嬢様が! わかるかー!(してやられた僕の遠吠え)
もう、存分に楽しませて頂きました。
そしてねぇ、それにしてもねぇ、探偵さん。あなた、えらい人に目をつけられちゃったよ? 無理無理。逃げられないから大人しくお世話しなせぇな。きっと良い目を見られるよ? お嬢様、怖いくらいに切れる方ですから。仲良くしておけば出世するよー。


そうそう、読み終わってからタイトルに目を戻して、なるほどと納得しました。
確かに『空蝉』だ。何重もの意味で。

投稿者 楽遊 : 2009年08月06日 23:41

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