« 工賃節約 | メイン | チキン、バジル、ガーリック »
2009年08月16日
覆面作家企画4:Eブロックの感想
Eブロックの感想でございます。
盛大にネタバレをかましています。未読の方はご注意です。
明後日の方向を向いた深読みをしている可能性があります。
作品には直接関係ないかもしれないけど読んでいる最中に作中文章から呼び起こされたイメージ方面に話題を展開すると感想が長くなる傾向があります。
勢い任せにおかしなことを口走っている場合があります。
お手柔らかにお願い申し上げます m(_ _)m
E01 コロンナ33遅き午餐
すげー世界観。
いや、えっらい自然の力の強い場所ですね。絶えず溶岩流が流れ出るとか、切り開かれた森は逆に切り開いた者達を飲み込むかのような勢いで回復するとか、そのため人間は絶えず森を切り開いていかないと――つまり遊牧民ならず、遊拓民、という感じかな?――生きる場所を得られないなんて。しかも原生林は広大無辺……す、すげえイメージ。ジャンルは広義の意味でファンタジーの部類になるのかな。それともむしろSFか。不思議と僕の脳内ではSFとして絵が生成されていきましたけども。
だからでしょうか、周囲の生命力の強さを反映するかのように、この話の中心たる師弟にも強さを感じたのは。姫……いや、女王の賢さと健やかなる純真。その純真は世間知らずや無垢なる者のそれではなく、秀でた王としての純真さ。世襲王権への批判的立場を取るもの達をも呑むだけの意気が、こちらにも確かに伝わってくる。
そしてその女王の師としてあった異形の男。一分野における比類なき第一人者らしい知にかける熱と、ただ知を持つだけでなく、人としても魅力ある智を持つ厳しい師匠。
この世界と、その中で午餐を採る師弟二人きりを描く文章は少し硬質で、句読点まで意識の行き届かせているのを感じれるほど無駄なく綴られ、華美に飾ることなく淡々としてもいる。けれど、どこかそのリズムの底には一定の――溶岩流のような――熱が滾っているような面持ちで、そしてその熱が、最後に音もなく噴出する。気がついていたら、足下には赤い溶岩が迫っている。
ああ、34への進路が、師弟の道を別ってしまったんですね。
それにしても姫さんの、直前の行動の大胆なことよ。そしてそれを押し留める、師の思いよ。
姫さんは、師が止まることを分かっていたのかな。もし止まらなかったとしても、身を委ねていたと思うけども……でもそれは、どういう思いなのか。師への感謝か、憐れみか。それともそうして欲しかった? 冠を取ったのは、一人の女性としてそこにいようと? 最後に。……その後で、佩いた宝剣を用いて自ら裁くのだろうから――。
徹頭徹尾、全ての流れが淀みなく、遡って読むと二人の関係性に秘められていた一面にも触れられる――それも何らかの式のように論理的に一致していく完成度の高い文章、構成。すごい。
それと。
この作品からは作者さんの『知』にかける情熱も伝わってくるようでした。途中の『諸秩序は人間の観念によってしか見出されないが、当の人間よりも、個々の自然現象よりも、世界の上位を占めるものだ』の一文にそれが象徴されているような気がします。何かの分野において研究を重ねている方でしょうか。
E02 サクラ散る
バス、事故、回顧を重ねる文章はまるでいなくなった誰かに語りかけるような口振りで。
もう、途中からこの物語がハッピーエンドでは終わらないと思ってました。
けど、一つ、騙されました。
亡くなったのは恋人だと思っていたけど、確かに命を落としたのは「恋人」だけど、そうかあ、そっちか。主人公こそか。四十九日の四十九日目の逢魔ヶ時。出会いの場所で、最後の別れ。
一人称で語る主人公。その口振りは幼さを残すかわいらしいもので、まだ未来があっただろうにと思うと、切ない。まだ恋人との時間があったろうにと思うと、悲しい。
お弁当攻撃をする主人公、それを断ってくれた好きな人、さらにフった女に追い打ちかけてフってくる好きな人、喧嘩してそれがいつの間にか告白になってと、その流れの微笑ましいやらニヤニヤさせられるやら。『だってカノジョになりたいんだもん』と言えない主人公がまたかわいらしい。
――だからこそ、『幸せでした』がきついんだよー。
思い残すことなく幸せを抱えたまま成仏できるのはいいことだと思うけどさ、できれば思い残すことなく幸せを味わいつくしてから成仏するのがいいじゃない。そんな幸せな死に方できる人間がどれほどいるかなんて、そりゃ少ないだろうけど、できればそっちの方がいいじゃない。
でも……
ありがとう――か。
短くとも、とても幸せな人生の幕引き。桜が散って、嗚呼……。
E03 Down Your Way
一瞬、“シュ”レンジだから頭を変じて『シュウ』なのか、シュ“レンジ”だから尻を変じて『レージ』なのか迷って二人の位置関係に惑っちゃったのは個人的な話。
SF。地球が何らかの影響で最も住みづらい星になっているのであろう世界観で、長編の導入部、といった様相。
それにしても、だ。
陰謀の……陰謀の臭いがプンプンするよ!
物語を語る二人、レージとシュウ。シュウは何やら権力者らしい父を持ち、星に残る。そして罪を背負った女曹長に惚れているレージは曹長の助けになろうとテラに行く。
……もう、役者も舞台も整っているじゃないですか!
ここから軍が隠したがる事実を暴露していったり、それによって命を狙われたり、撃退したり、あるいは隠された秘密を巡って壮大な展開があるわけですね?! それこそ星一つが滅ぶかどうかとか! 想像は溢れ出る!
そしてその中心にあるのは曹長の尻に敷かれたレージなわけですね!? というか曹長の人物像、凄いことになってるんですけど……いいんでしょうか。イメージ的にはマッチョなシガニー・ウィーバー(@エイリアンシリーズ)が……。
あ、でも最後にわざわざ貨物船って出してるから、もしかして?
――と、しかし、与えられた情報からはここまでで溢れ出る想像に“栓”。
うっぉぉぉ(T T
E04 地球全周1/40000000と少しの世界 注
タイトルからは想像できない「幻の世界」に飲み込まれるかと……ッ。
なるほど、これに『注』をつけたのはうなずける。言い方は変だけど、催眠術にかけられているかのような読感。それとも、何て言ったっけな……カウンセラーが逆に自分の患者の話にのめりこんで感化されてしまう状況のこと、多分それに似たような感覚。
現実と妄想の境が非常にあやふやな話。いや、実際にはしっかりと「現実」と「妄想」の間には境界線があるんだけど、初っ端で『妄想が好きで好きでたまらない』という主人公の「現実」の告白があるから、今の話は妄想だったけど次は現実だろう・あれ? また妄想だったけど次こそは現実だろう。だってその話が妄想だと言うなら妄想でない現実に着地しないと事実関係が成り立たないんだから・あれ? また妄想? いや、それよりも、そもそも初めの『妄想が好きで好きで~』ってのも本当に現実? どこからどこまでが妄想で、現実は本当にあるのか!? ・と、混乱してくる。くり返される同じ構図がくり返される度に厚みを増して重苦しさをも増していく。最後まで読んで、騙された! と思うと同時に構成の巧みさに脱帽。いやー、完全にしてやられました。一人称のパワーもうまく取り込まれてて、お見事です。面白かった。
完全にしてやられて、そして、主人公の置かれている状況が明かされた時、これまで現実を厚く覆い隠していた妄想が取り払われて、それと同時に「妄想が守っていた」主人公の痛みを現実を知ったこちら側へと重苦しく流し込んでくる。まるで、妄想をすることで自分を守っていた主人公と同じように、これまで“読者(僕)も主人公の妄想によって守られていたのだ”と、そういう錯覚が……。
ラストの、冒頭の問いかけからつながる平和な友達同士の会話の明るさが、明るいからこそ皮肉なほど切なく感じてねぇ。
電車は確かに自分の車輪じゃ線路からはみ出せないけど、ちょっとばかり他の車輪を借りれば線路から外れて動けるよ……と、思ってはみても――う、ううむ。
E05 夏椿の咲く庭で
そ・う・き・た・かー!
初めは年取った女性の口調かと思ってました。が、どうやら年取った男性らしいと判ってからはちょっと名の知れた店の旦那が語って聞かせてくれているのかと思いました。そうか、妻と子が……それはお気の毒な――って、毛皮を剥ぐ? って、あんた狐か狸かい!
と、驚いた時ですよ、急に疑問に思うのは。なんでそれが寺の夏椿に心を寄せている? と、ただ物語るキャラクターの美的感覚かと思いきや、それが何やら坊さんとあいまって物語りに重要な役割を持っているらしいと興味を引かれたのは。
せつせつと妻と子を奪われた当時を語る語り部。死にかけの無念と、死にかけながらも抱える復讐心。それを解きほぐす坊さんの説教。救われた者から語られる、苦しくも温かくなる話。
そうかー、それで夏椿が特別なのか。坊さんの心遣いも胸に沁み、ほぅっとため息をつきながら話を聞き終えようとしたその時、語り部の語る山賊の件。
……いや! いやいやいやいや!
んん……まあ、旦那は人が……動物が? 好いんでしょうねぇ。ああ、いや、こっちの話です。ええ、何でもありやせん。しかしそうですか、この山には賊が出ると。ははぁ、なるほど、そいつはいけねぇ。そいじゃあ日が暮れない内にお暇するとしましょう。因果応報、あっしにもどこの因果が返ってくるか分かりやしやせんからね。
じゃ、どうも、楽しい――と言っちゃいけやせんやね。貴重なお話を頂き、ありがとうやんした。え、そんじゃ旦那もお体を大事に。坊さんにも怪我すんなよ、と。ええ。
は? そうですねぇ。そんじゃあお天道さんの機嫌の良い日にでも寺に登って夏椿を拝むといたしやしょう。そん時はいっちょあっしを化かして出迎えて下さいや。一度は化かされてみたいもんでやんしてね。……はは、できればお手柔らかに願いやす。
ではでは旦那、どうぞお達者で。
E06 ただいまセルフィ
好きなジャンルです! 楽しみました、考えました、唸りました、そして――ここに何を書けばいいかな……。
時系列で言えば「近未来」のカテゴリに入るところでしょうか。現在の生活様式から大きく離れなくとも、細かい部分で様々な発展が見られ、指向性のある聴覚(と同時に様々な情報を記録もする)を使用者にもたらす『イヤフォン』、携帯電話の発展系――というよりも電話機能付きのモバイル、それに、所有者のコピーとなる『セルフォイド』。もちろんそれは完全なるコピーではなくて、所有者のパーソナルデータを共有する双子……のようなもので、一方のみが知る情報も存在するし、その性質上、セルフォイドは所有者を後追いしている所有者にしかなれない。語弊を恐れず言うなれば、バックアップに近いかも。
んー、ガジェットが実に興味深く、面白い。そしてセルフォイドという「もう一人の自分」を有するが故の葛藤が、SFの中にある「人間とは何か」という問いかけの類の魅力とでも申しましょうか、実に実に興味深く、また、切ない。
「もう一人の自分」がいるということは、いわば常に「自分の姿を見せられる」ということ。それが例えどんなに醜くても。それが例え、変わってしまった自分がいかに醜くなっているかを炙り出す比較対象だとしても。
もし、自分が自分の望まぬ姿になっていたとセルフォイドを通じて――実質強制的に――知らされたとしても、それを受け止め「望まぬ自分」からセルフォイドの体現する自分に戻れるならいい。けれど、それを受け止められず耐えられないのであれば、自分に「自分の醜い姿」を見せ続ける「もう一人の自分」を殺してしまうしかない。いわば、過去の自分を殺すことで今の自分を肯定するために。
「戻る」ことの出来た主人公は、幸いなのでしょう。自分が望まぬ人間になっていることに気づいて、過去の自分に『ただいま』と言うことの出来た主人公は幸いなのでしょう。しかしもしそれが出来なかったとしたら……彼女の進む道は、暗澹たるものだったかもしれない。好きな男と、その恋人であるらしい友人へ暗い行動を取って、最悪自ら破滅していたかもしれない。セルフォイドがどういう意図でこの世界に生み出されたのかは解らないけれど、もし「自分を顧みるため」の道具としてだったら、それはこのケースにおいては良好な結果を生み出した。
でも、世の中の人間が全て主人公のように踏み止まれるとは限らないことは、既に作中で示されている。自分を顧みることができず、あるいは、自分を顧みた結果、自分を『殺す』事件が相次いでいる。
セルフォイドを壊した――もう一人の自分を殺した人は、一体どういう心理を得るのだろう。この物語を読んだ後、主人公が踏み止まったことに安堵しながら、そんなことを考えていました。きっと……救われないだろうなぁ。それだけを思って、まだ、考えはまとまらない。
過去の自分を殺して未来の自分を輝かせる――なんて精神的な、内面的な戦いであればその勝利はその人を活かすのだろうけど、実際に、物理的な戦いで自分を殺した場合は、人の精神は一体どのような影響を受けるのだろう。
……難しい。
セルフォイドは用法を間違えなければ多くの人を支え、それとも立ち直らせると思うけど、反対にひどく危険極まりないとも思う。難しい。ひとまず、常用はお勧めできないかな、個人的には(^^;
ただはっきり思ったのは、友人の白雪は……「もう一人の白雪」をいずれ殺してしまうだろうな、と。
あ、それと、『花束』に『白雪』ってかなり思い切ったネーミングだと思うんですが、これは何かのヒントなのでしょうか。セルフォイドってのも、何かの所以がありそうだし(selfとandroidを合わせてもじったようにも思うけど)。
……一応書いとこっと。
『花束』っていう名前が作者さんの遊び心と信じて、こちらを書いたのは鈴子さん。
理由は意気込みで「アルジャーノンに花束を」が好きって書いてあるから!(←一番間違いを犯しやすいパターン)
E07 花想
道ならぬ恋、という裏テーマもあるのかな……と、読後に思いました。テーマの消化は作中明言する形で消化されているけれど、それよりもむしろ、隠された(隠した?)テーマの方がこの作品の基礎になっているような。
一人称で、わりあい説明を省いている。あえて情報を限定することでこの作品の雰囲気を作ったのでしょう。
視点となる『女』の感情豊かな――同時に我儘そうな――男の子の観察記録をつぶやいているような筆致からは感情と人間的な感覚の乏しさが滲み出て、それが当初から予想はついているけれども明確に語れることのない『女』の身の上をどんどん補強していく。その正体はついぞ明かされることはないけれど、木の実を美味しいと感じたり、『らしくない』と思いつつも男の子に名を付けろと言ったり約束したりと、彼女が少しずつその男の子――定良に感化されていくのがかわいい。『女』は定良の姿から「かわいい」というものを学ぶけど、読者は同じ感情を定良をかわいいと思う『女』から感じるという素敵な二重構造。
――と、言いますか。
ツンデレですよ! ツンデレ! この桜の木の精(多分)さんときたら、ぶっきら棒で諦観じみながら、これはいいツンデレですよ! 作者さんはツンデレ好きと見た!
……いやいや。
そして定良。彼がまた馬鹿でいい。ツンデレ(まだ言う)の相手に相応しい頑固さ。『化け物に操を立てて』死ぬなんて、確かに馬鹿でしょう。でも、だからこそ死後に娶ることがでたんでしょう。もちろん二人が結婚したなんてどこにも書いてないわけですが、それがこの先の自然の流れってものです。目の前に寺なんて建てられて、おそらくそう遠くにはいけない彼女がこの執念から逃れられるわけがありませんし。
ひとまず定良は死後の幸せを掴んだんだから、家督相続で(養子縁組とか)きっと苦労したであろう家の皆さんを彼女と共に守護してあげるといいと思うんだ。というか、そうしないと逆に罰が当たると思うんだ。
E08 人生に乾杯!
ッかんぱーーーい! (≧∇≦)/□☆□\(≧∇≦ )
本当にその一言で十分な感想のような気もしますが。ええ、嘘偽りなく一番に思ったことですし(笑
さあて、なんとも幸せまっしぐら!
ページを開いた瞬間作品の短さ(スクロールバーで判断)に「どういう話をどうまとめたんだろう?」と思いましたが、なるほどこれはまた綺麗にまとめてきましたねー。どストレートな告白が気持ちいい。赤いバラの花言葉と言えば僕は真っ先に“情熱”が浮かんだけれど(花言葉はいくつもあるので作中のものが間違っていると言ってるわけではありません、念のため)、それはそのままこの作品を怒涛の勢いで引っ張る『ぼく』の情熱のようでまざまざと目に浮かぶ。それを飾るカスミソウも、また清らかに。
んー、花屋のCMにすると映えそうです。
お題の消化は二人が歩く『タイルの道』より、むしろ『ぼく』=太陽=天道かな? 花である恋人を照らす。
それとこの作者さん、覆面バリバリ被ってきた気がすっごくするんです。手がかり少な……!
E09 回収者 注
この設定、このままゲームに使えそうな勢いッ。
規定枚数原稿用紙20枚。その中にこれでもかと詰め込まれた情報、ガジェット、世界観に、主人公の悪態にまみれた独白。悪態をついていないと、精神を保てないという悲鳴が聞こえてきそうな独白。
読み進めるうちに色々なイメージがぐるぐる巡りました。ギーガーの絵も浮かんだし、どこかで見た荒廃した未来世界の廃墟を描いたイラスト、精神病患者の描いた絵、SF映画、ゲーム、色々と、色々と。
精神感応素材というガジェットはSFによく出てくるものだけど、それが『ネットにつながれてる廃人連中の夢やら妄想やら』に反応して暴走するというアイディアがとても面白い。しかもそれは絶えず『ネットに巣くった集合無意識に』リンクして『<発狂>』し続けていると。なるほど、確かにインターネットに人間が直接接続ができるようになったのなら、そしてそこに精神感応をする物質があったとしたら、それがそんな風に暴走してしまう可能性がある――というのは筋が通ってる。ひどく物質的ではあるけれど、ある意味人間の精神が生み出した亡霊・怨霊というようなものでしょうか。そして人類自らが、主人公の考察を軸に取ると『人間の悪意』から生まれた欲望の化身に食いつぶされようとしている。
何だか……色々と社会風刺も盛り込まれているようで、本当に情報量が凄まじい。おそらく今回の主人公の物語はこの短編で終わったろうけれど(『聖母』が本当にいたらそうとは限らないけれど)、他の人間……例えばフクダを主人公にして長編を初めてもまったく問題ない。
語られる情報が多い分ちょっととっ散らかっちゃってるところもあるけど、整理して考えると実に想像を掻き立てられるSF。
そして読者として勝手な想像を言うと――
多分、『<天国シェルター>』は本当にあるんじゃないかな。
そしてそのシェルターに住まう人間が、シェルターの安全を確実に確保するために……つまり、他の誰もそこによりつけないようにするために、コバヤっさんの言う『悪意』をつついて世界を『<発狂>』の中に落とした。
――とかね。
それと、最後にBGM(ですよね?)を置いていくのがまた心憎い演出。
E10 見返り坂道具店 注
店主との会話を見てて頭に血が上りやすい子だなーと思っていたら、それ以上に頭に血が上りすぎちゃう子だった!
……でも、うん、まぁね? 最後に先輩にフられて“そう”言われちゃうの、何だか分かる気がするのですよ。どこを読んでいてもノゾミに魅力というような魅力を全く感じなかったものですから。や、作者さんはそれを狙ったんだと思うんですけどね? 簡単に激昂しちゃったり、どうも視野狭窄っぽい感じだし、何より最初から自分の力で挑むことを放棄しちゃってるから。
……ノゾミちゃん、君は観たことないのかな。君のように何の努力もしないうちに道具に頼って最後には逆転くらって泣きをみる世界的に有名な小学生を。彼は彼を守るネコ型ロボットが相手だからいいけれど、そんなあからさまに妖しい店主を相手に甘いこと考えてたらそうなるよ。ああ……でもなぁ、最初の噂話の『願い事をきいてくれる』っていう都合のいいところしか覚えてないんだから、結末は必然の、さもありなん――か。
なんというか、個人的に同情を向けられない少女の――そうなるであろう結末に向かう女性の物語を、図鑑の上に置かれた重し代わりの角ドクロになった気分で眺めていました。さすがに最後、まさか先輩を殺してくるとまでは思いませんでしたけども。って、やりすぎだお前ー!
しかし……でもねぇノゾミちゃん、君がもし先輩を殺してきてはいなかったら、もし店主を殺そうとはしなかったら、もうちょっとマシな罰を受けられたかもしれないのにな、なんて思いもするよ。だって『見返り』ですもんね。振り向き見る、と、報酬、と――代償と。
それと、ちょっと気になったのが先輩についての描写。
店主が『完璧過ぎてつまんない感じがするね』と言うくらいなら、『スポーツも勉強もそこそこ』だとおかしいと思います。いっそ手加減せず学校一の文武両道のイケメンで良かったんじゃないかな。
E11 幸せの道
『1. 別道』を読んだ後、タイトルからきっとハッピーエンドで終わるのだろうと思ってました。
――が。
読み進めていくと、何だかきな臭くなってくる。傭兵家業の業とはいえ、自分の生まれ故郷を攻める国についている主人公。ここでもいまいち頭角を現せずにいるっぽい。そしてそれは、作中の彼の言動からもビリビリ伝わってくる。
あの日、道を別ったその彼女が行った王都から、学者が一人『悪魔の媚薬の機密文書』を持って逃げ出した。それを追う任務を与えられた……ときたらさ、主人公セロン、ちょっとは穿って考えようよ! 最悪のケースを。彼女、薬師になるのが夢だったんでしょ? 製造に関わってるかもしれないじゃん。まあ、その逃げた学者が彼女だとは想像がつかないまでも、隊長、君の隊長、何か人の好さそうな隊長殿の様子からちょっとは察しようよ。明らかに君に気を遣っているじゃない。けど、その気の遣いようって、妙に“割り切った”人間の気の遣いようっぽいじゃない! ほら、事情は汲むけど、悲しくても斬っちゃう、みたいな。
逃亡した学者の捜索を開始して隊がばらけた時に、ふとタイトルを見返したのですよ。『幸せの道』……まさか、裏を打ったタイトルじゃなかろうな? ハッピーエンドと見せかけてバッドエンドになって、幸せだった頃二人で歩いた道を思い出して、それが幸せの道だとか言うんじゃないだろうな……と不安に思いつつ読み進めましたよ。
そして安心しましたよ。やっぱ隊長、あんた人が好いな! 何かおいしいところ全部持ってっちゃってるよ!
亡命した二人の暮らしは――ヒロインは軍事・政治的に超がつくほどの重要人物になっているので、シア郷国に何らかの利益をもたらすことを条件に匿ってもらう等よほどうまくやらない限り――苦しいだろうけれど、ラストシーンのほのぼのぶりにホッとため息。『幸せの道』、落ちるところに落ちて、いい読後感でした。
E12 世界ノ果テノソノ向コウ 注
このブロックはSFが多めですね。そしてどれも歯応えのある読み応え。んー、楽しい。
舞台は何百年も戦争の続いている世界。サイボーグ技術や……いわゆるパワードスーツの類型でいいと思うんだけど、『ナノマシン結合の装甲をまとった戦闘要員』等、まさにSFの王道の一つ。これくらいの技術力があれば現行の兵器の威力を軽く上回るものがぼこぼこありそうだけど、むしろだからこそだらだらと戦争が続く要因になっているのでしょうか。こっちがソレを使ったらあっちもアレを使ってお互いにドボン。だから小競り合い程度の規模でしか逆説的に争えなくなって、結果戦争も長引いていると。それも気の遠くなりそうな消耗戦の形をとって。……というか、軍規どころか、戦争の理由もぐずぐずになってるんじゃないかな。この分じゃ。
そしてその閉塞的な世界で、それでも「夢」に目を輝かせる少年の姿が、だからこそやけに際立っている。彼を巡る大人たちはすっかり現状に慣れて、それを受け入れて生きているけど(もちろんそれを否定するわけじゃない)、ジャランは違う。自分の手にいれた力――Dクラッカーで新天地に赴くために命を懸けて海を目指す。結局は海ではなく、空で「空」を割って次元を渡り「もう一つの世界」に辿り着いて……運悪くか、それともDクラッカーを使用したための反動でか、死んでしまうけど、文字通り命を賭けて手に入れたその世界への歓喜を胸に死んでいく。
博士が、その感情を素直に受け止めて――いや、素直に受け止めざるを得なかったのかな。意識的にしろ、無意識的にしろ、結末は死であったとはいえ、自身が『どう考えても、馬鹿げている。馬鹿げているはずだ。』と思っていたジャランの希望が叶った現実を共にし、その記憶も共有した博士は、心を揺さぶられるしかなかったんでしょう。
それまでが殺伐としていたから、鳥の鳴く、青空と樹冠の下で、流れた涙がこう……胸にジーンと沁みる。
そして、博士が今いる世界に留まる可能性も考えてみたけど……いや、帰るでしょうね、彼は。どんな世界だろうと、あの世界が自分のいる場所だと思っていると思うから。
投稿者 楽遊 : 2009年08月16日 22:51
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://rkyu.com/mt/mt-tb.cgi/727

