吉田和代さんから、何とSS付きで頂きました。
『ニトロの悲劇 シリーズ』より。
SSも載せていいですか? と訊いたらご快諾いただいたので、
お礼に送った僕のSSもくっつけて、コラボとして同時掲載です。
区切りより上が吉田さん作、下が僕。およそ二人共に書きなぐり(笑)です。
吉田さん、素晴らしいイラストとSSをありがとうございました (^^ノシ

吉田和代さんからの贈り物『草原のティディア』

「ニ〜ト〜ロ〜!」
 さわやかに澄み渡る草原を背に、ティディアが手を振った。性格に難ありだが、腐っても鯛。いかにクレイジーといわれようとも、国民の人気の高い我らがプリンセスは、その笑顔一つで奇行に近い言動も不問にするという、類稀なるスキルがあった。
 が、ニトロ・ポルカトにだけはそのスキルは通用しない。
 今や国民公認の恋人とされているが、実際のところ恋人どころか、ティディアの存在すら全否定するニトロは、その邪気の欠片もない笑顔に逆に総毛だった。
(なんだ、今度はどんな罠が!?)
 とりあえずは背後を確認する。今のところ、敵の動きはこれといってない。
 いや、そうと知れぬよう、何かしらの罠があってもおかしくはない。なにせ相手はクレイジー・プリンセス。常識など通用しない。
「おーい、ニトロってば!」
 胡散臭い。どこまでもさわやかな風景に、さわやかな笑顔。これは罠に違いない。
 でも……
 たまに、そうそれは鬼の霍乱レベルの可能性の低さで、しおらしいことも、滅多にないがあるにはある。
 ないに等しい可能性だが、ゼロではない。
 ニトロはもう一度周囲を見回し、考えた。
 これは、罠? それとも? とりあえず歩みを進めた。よかった、まだ罠は発動していない。というか、一歩進むごとに安全確認をする自分もどうかしているが。
 しかし素直に受け入れるにも、これまでのティディアの行動を考えると、無理からぬことだった。
 しかしこのままではティディアの前にたどり着く頃には、心労が重なりそうだ。
 ニトロは腹を決めた。
 覚悟を決めてニトロは歩き出す。こんな天気のいい日だ。騙されているなら騙されてもいい。もちろん、そんな風に思ってやれるのは、この気持ちをやわらげる景色あってのこと。これが往来だったら、確実に逃げているが。
「もう、さっきから呼んでいるのに、遅い!」
 どこかむくれたように、ティディアは言った。
「おまえの日ごろの行いの悪さが俺の歩みを妨げるんだよ」
 そう言ってニトロは苦笑した。
「ひどぉい! でも、詰めが甘いわよね、ニトロって」
「へ?」
 ガッシャン! どこから出てきたんだよ!? と責めたくなるのは仕方がない。それまで草原だった場所に突如として現れた檻としか思えないそれは、ニトロとティディアを完全包囲で閉じ込めた。あげく、それまで地面だったはずの場所は盛り上がり、グググッっと舞台装置のようにせりあがると、なんとそこは檻を載せた浮遊式のトラックの荷台だとわかる。
「ニトロ、確保!」
「確保じゃねぇ! バカ姫! ほんの一瞬でも気を許した瞬間にやることがこれかよ!」
「だってぇ、ニトロすぐ逃げちゃうじゃない。デートしよ? って誘っても、応じてくれないし、芍薬ちゃんが一緒だと睨みをきかせているから、二人きりには程遠いし」
「こういうことするから逃げるんだよ! あぁ、もうバカ! いいから出せ! ここから出せ!」
「だぁめ! 二人きりの愛の牢獄で楽しみましょ?」
「楽しめるわけがねぇ! このバカ姫!」
 澄み渡る青い空に、ニトロの叫びはむなしくかき消された。

*  *  *  *  *  *  *  *  *

「で? それでどうしてこうなったのです?」
 浮遊式のトラックの荷台に載せられた――檻。その鉄格子に“張り付けられた”王女を見て、ハラキリは嬉々としてカメラのシャッターを切り続けている女性に訊ねた。
「ニトロ様に怒られたのです」
「人間って、誰かに怒られると鉄格子に愉快な格好で組み込まれるんでしたっけ?」
「壊されちゃうかと思ったの」
 ハラキリの言葉に応えたのは、問いかけられた女執事ではなく、カメラのフラッシュを浴びるアデムメデスの第一王位継承者だった。彼女の左足には、鉄の棒が“巻きついている”。右足は上斜め45度の角度で持ち上げられて、さながら織物の縦糸に通された横糸のように格子に絡んでいる。だが、その状態でも足の骨は折れていない。柔肌も美しい大腿から足首まで、絶妙に歪められた鉄棒の間をまっすぐ通されているのだ。そして棒と脚の間には髪の毛ほどの隙間もないために、自力では外すことができないでいる。
「ものの十秒だったわ」
 両腕は一度二本の鉄棒を抱きかかえるように格子の間を通され、頭の上で組まされている。その手は彼女の自慢の黒紫の髪で結ばれており、無理に解こうとしようものならいくらか禿げること必至だ。
「猛烈なデコピンの連打を食らって意識が飛びかけて、ふっと気がついた時にはこの有様」
 鉄でできた蜘蛛の巣に囚われた変態バレリーナ……あるいは壊れた操り人形といった風情の彼女の額は、斑に赤い。ハラキリはその赤みが何の跡なのか理解し、うなずいた。それはそれは、とっても痛かったことだろう。
「ニトロったら……無理矢理……こんな恥ずかしい格好をさせるんだもの。あ、ハラキリ君、平然とパンツ見ないで」
 右足が持ち上げられているためめくれたスカートから、やたら色っぽい下着が覗いている。
「貴女の執事は平然とそれを撮り続けているわけですが」
「見せパンだから大丈夫」
 つい一言前の言葉を平然と翻すティディアのそのセリフから、ハラキリは察した。
「それを見せつけて迫ったら反撃されたのですか」
「ううん。スカートの中にニトロの頭を突っ込ませたら反撃された」
「どこのエロサイトからネタを拾ってきたんですか」
「メルトンちゃんから」
「おや、これは意外な情報源」
「最近そういうのが受けてるんだって」
「アダルト業界にも流行り廃りがあるようですからね」
「……で? 助けてくれないの?」
「ヴィタさんに命じてください」
 無情にも即答されて、ティディアは眉を垂れた。
「友達じゃない。ハラキリ君、冷たいわ」
「手引きをした拙者も、壊されるかと思ったんですよ」
「あら、何で?」
 器用に小首を傾げてみせるティディアへ、ハラキリは肩を痛そうにすくめて、
「どこに連れ出したんだと芍薬に関節を極められましてね。軽く脱臼しました」
「ああ、だから芍薬ちゃん、ここが分かったんだ。にしても拷問に耐えられないなんて、だらしないわよハラキリ君」
 ティディアの後方――彼女が貼り付けられている面の対面の鉄格子は無茶苦茶に壊されている。曲げられ、折られ、大の男が通るに必要十分な穴ができている。
「いやいや、芍薬はもはや完全無欠にニトロ君第一ですから。元マスターに対するこの仕打ち……しかし立派なA.I.としては正しいと、撫子が喜んでいたのが何とも微妙なところです」
「……それで? それが何か関係あるの? 私としては、この際自白しちゃったのは別に責めないけど、助けてくれないのは責めたいんだけどな」
「お姫さんを助けると、骨を一本持ってかれるってことです」
「それが、芍薬ちゃんからの本当のお仕置き?」
「ええ。ついでに、貴女へのお仕置きでもあります」
「私?」
 眉根を寄せるティディアに対し、ハラキリは喉を均してから言った。
「友達に助けてもらえなくって悲しいだろ、バーカ!」
 その、唐突な口調――芍薬そっくりな口調にティディアはきょとんと目を丸くした。そこにカメラのフラッシュが焚かれる。むふー、と、至極満足そうな鼻息が、風の音流れる草原にこぼれた。
「芍薬からの言伝、確かに伝えましたよ」
「……ニトロからは?」
 ちょっと泣きそうな目でティディアに問われ、ハラキリは苦笑した。この期に及んでニトロの反応を聞きたがるとは……
「何もありませんよ」
「何も?」
「ええ」
「…………パンツ」
「それに関しても、印象すらも何も」
「………………大失敗?」
「ま、いつものことですね」
 飄々と共犯者に断じられたティディアはうなだれて……やおら、わなわなと体を奮わせ出した。
「もー! 次よ次! こうなったらもう一回チャレンジ! パンツで駄目ならノーパンで雪辱してやるわー!」

おしまい

Illustration → Copyright© 吉田和代
Novel → Copyright© 吉田和代&楽遊

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